作られた「高齢者像」を鵜呑みにするな(2/2 ページ)

» 2016年05月06日 07時36分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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 確かに困難に直面する高齢者はいるし、問題提起としては必要だ。しかし、多くの高齢者の実態とは大きく乖離(かいり)しており、ミスリードが過ぎる。

 例えば、平成27年版高齢社会白書では、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」を合計した割合は76.1%に上り、「家計が苦しく、非常に心配である」は6.5%に過ぎなかった。75歳以上で要介護認定を受けているのは23%だが、うち要介護3以上は4割程度だから、身体的に自立生活が難しくなっている人は後期高齢者全体の1割もいないことになる。

 幸福度は平均6.6点(10点満点)で、6点以上をつけた人が約6割、5点以上をつけた人では約9割となっており、高齢者はおおむね幸福なのである。

 本来は、このような実態を正確に伝えるのが報道の責務であり、実態に即した世論形成がなされることで効果的な政策も選択されやすくなる。ところが、高齢者白書などが発表されても前述のような部分は無視され、大変だ、可哀想だという箇所だけに焦点が当たったニュースになる。自分たちの決めた高齢者像と矛盾する内容は避けたいのだろうが、公共性を標榜する報道機関の姿勢として疑問が残るところだ。

 悪いことに、大手メディアが描く高齢者像に便乗する輩も増えてきた。「下流老人」がその典型で、高齢期に多くの人が経済的逼迫に陥ると煽り、金融機関や士業などが「下流老人になる人の特徴はこれだ!」などと、根拠の薄いチェックリストを作ったりしてその備えを商売にし始めている。受け手として報道内容を鵜呑みにせず、的確に読み解く力を身につけるのはもちろん重要なのだが、メディアにも、高齢者の実像を正確に伝えようとする姿勢へ転換を求めたいものである。(川口雅裕)

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