「ベーシック・インカム」は日本を元気にする秘策になるかマネーの達人(3/5 ページ)

» 2016年07月14日 06時30分 公開
[完山芳男マネーの達人]
マネーの達人

スイスでは国民投票で否決

 折しも、スイスで6月5日にベーシック・インカム(最低生活保障制度)導入の是非を問う国民投票が実施された。国民投票といえば、EU離脱を決めた英国の国民投票(6月23日実施)が世界の金融市場を震撼(しんかん)させたが、欧州の国々では国家の重要課題を国民投票で決定する直接民主制が根付いている。

 筆者はスイスの国民投票に大変注目していたが、日本ではそれほど大きく報道はされていなかったので、この国民投票のことを知らない読者も多いことだろう。

 投票の結果は、大差でベーシック・インカム導入が否決された。報道によれば、ベーシック・インカムを提案したスイスの市民運動は、当初から制度の実現よりも問題提起を目指していた面があったようだ。理想的過ぎるとの批判を受けつつも、推進派が求めたのは「自己実現のために働く社会」を考えることだったのかもしれない。最低生活保障について「78%が反対」という結果にもかかわらず、賛成票の割合が国民投票に必要な署名を集めた推進派の予想をはるかに上回ったことは、大きな意義があったということだろう。

 最低生活保障の支給額は可決後に法律で決める段取りだったが、賛成派は月額で大人に2500スイスフラン(日本円で約28万円)、子供に625スイスフランを提唱していた。物価水準の高いスイスでは、一般的に月収が4000スイスフランを下回ると生活が苦しくなるとされるので、ベーシック・インカムだけでは到底豊かな生活はできない。

 推進派グループのリーダーは、ベーシック・インカムを得ることで仕事を選びやすくなり、より生産的で創造的な労働に従事できると主張していた。「勤務時間が短く給与もストレスも少ない仕事をあえて選び、家族と過ごす時間を増やす」という選択が、最低生活保障があれば可能になるというわけだ。「誰もが生活の心配をせずに自己実現に挑めるようになる」という、理想の社会実現に向けた社会運動といえるだろう。

 また、推進派が「人工知能(AI)やロボット技術が発達し将来多くの雇用が失われることに備える必要がある」という論理を展開していたことは、非常に興味深い。

スイスではベーシック・インカム導入の是非を問う国民投票が実施(写真と本文は関係ありません)

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