本が売れない時代に本を置く異業種店が増えているのはなぜ?繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(1/4 ページ)

» 2016年10月06日 06時30分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

繁盛店から読み解くマーケティングトレンド

世の中の変化が激しく、何が成功につながるのかが分かりづらい現代社会。情報があふれる今、正しく未来を読むことは非常に難しくなっています。

このような時代に必要なのはファッズをつかむことです。ファッズとは小さな変化の波のことです。巷で流行り始めている店や、最近人が集まるようになってきた場所、売れ始めてきた商品などには大きな時流へとつながるヒントがあります。正しく未来を読むためにはファッズを見逃さないことが大切なのです。

この連載ではファッズをとらえて流行をつかむことをキーワードに、繁盛店から次のマーケティングトレンドを読み解きます。


 最近の繁盛店には業種の垣根を超えてある共通項があることが分かりました。それは「本」です。

 店作りが進化する中でなぜ今、本なのか。今回は、本を置く店が増えている理由から、これからの消費者マーケティングトレンドを考えます。

「蔦屋家電」の売り場には本と家電製品がうまく融合して並ぶ 「蔦屋家電」の売り場には本と家電製品がうまく融合して並ぶ

本が売れない時代になぜ本なのか?

 アパレルのセレクトショップ、住関連の家具や雑貨の店、子ども服の店、カフェ、バー、飲食店にいたるまで、最近の繁盛店に行くと必ずと言っていいほどそこには本があります。

 本を店に置くこと自体は珍しいことではありません。昔から店内に本をディスプレイしたり、インテリアとして置いたりすることはよくありました。本を置いておくとイメージがいいからという理由で、高級感を演出したいブランドショップなどで洋書や辞書、海外の写真集などをディスプレイしているのを目にしたことがある人も多いでしょう。

 しかし最近見掛ける店は明らかに「本を売るため」に置いています。棚を置き、在庫を持ち、1つの商品カテゴリーと位置付けて売場の中に陳列しています。本はそれほど売り上げにつながる魅力的なアイテムなのでしょうか。

 本そのものはいまや成熟した商品であり、出版不況で販売数も減少の一途をたどっているのが実態です。出版指標年表2014(公益社団法人 全国出版協会)によると、すべての書籍関連は年々減少傾向にあることが分かります。

書籍関連の販売数はすべて減少傾向(出典:「出版指標年表2014」公益社団法人 全国出版協会) 書籍関連の販売数はすべて減少傾向(出典:「出版指標年表2014」公益社団法人 全国出版協会)

 出版関係の調査研究をする出版科学研究所(東京・新宿)によると、2015年の紙の出版物市場は14年比で5.3%減の1兆5220億円と試算しています。減少率は1950年に調査を始めてから過去最大。文芸書などでミリオンセラーも出た書籍は比較的好調で2014年比で1.7%減の7419億円ですが、一方の雑誌は同8.4%減の7801億円と大きく落ち込んでいます。大手出版社も長年続けてきた老舗雑誌の休刊や廃刊を次々と発表するなど、雑誌はかなり厳しい状況のようです。

 紙の出版市場はピークの1996年から4割以上縮小し、出版社と卸である取次会社、販売する書店の三者が中心となる出版流通網が弱体化しているのが実態です。新規出版点数は増えていますが、売り上げは減少しています。まさに出版不況。成熟商品の代表格が本なのです。

 近年はネットの普及で電子書籍が増え、書店も廃業や閉店など苦戦を強いられています。2014年度で全国の書店数は1万3943店舗。1999年に2万2200店舗あった店舗数から9000店舗ほど減少しています。年間600店舗ずつ減少していますから、毎日約2店舗が閉店していることになります。

 この数字だけ見ると「本はもう終わっている」となるわけですが、今は「イケてる店」、「繁盛している店」には本があるというのが定番になっています。これは書店での売り上げが厳しいので新たな販路を開拓して広がったわけではありません。どちらかと言えば小売店側からぜひ本を置きたいと、新たな品ぞろえの1つとして考えているのです。

 異業種の店が本を置くようになったのはなぜでしょうか。

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