増沢隆太(ますざわ・りゅうた)
株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役。キャリアとコミュニケーションの専門家として、芸能人や政治家の謝罪会見などをコミュニケーションや危機管理の視点で、テレビ、ラジオ、新聞等において解説している。大学や企業でのキャリア開発やコミュニケーション講座を全国で展開中。著書「謝罪の作法」他多数。
大手広告代理店の過重労働はついに自殺にまで及んだ痛ましい事件となりました。事件の舞台となったひどい環境は論外ですが、管理職が自分の職場においてどこまでが過重だったり、どこまでがハラスメントかという線引きで見きわめに悩むことはあると思います。私が管理職研修でお話しているその線引きとは――。
事件となったような超絶な残業に加えたパワハラ、セクハラとおぼしき環境であれば、一方的に企業側の責任は明確です。生命や身体への危険については「安全配慮義務」として法律が定める企業の責任だからです。そこまでに至らない恒常的長時間労働ではどうでしょう。「部下が勝手に残業をした」「休めといっていたのに休まなかった」という言い訳が横行しますが、結果として健康を害するほどの就労環境を放置すれば、責任は明確に会社側にあるのです。
「昔はこうだった」「広告代理店はそんなもの」「死ぬまで働いて1人前」という反論は、法的に通用しないのは明確です。今回の事件だけでなく、ハラスメントと精神論の境目は、法律という線を引けばその正否は明らかなのです。精神論に意味がないといいたいのではありません。しかし価値観の違う主張をぶつけ合ったところで合意に至ることは難しく、こうした安全配慮の問題は今日明日にもすべての管理職の身に降りかかる可能性があるものです。
企業のコンサルティングでセクハラ問題に対処する場合、加害者側は「そんなつもりはなかった」「親近感の一部」などと言い訳をするのが普通です。この種の反論に理解を示す経営者もいるのですが、加害者の感覚や意図はセクハラ問題対処において関係がないことを説明します。やった行為が名誉棄損(きそん)や侮辱になるかどうかで決まるのです。
「(セクハラは)イケメンなら無罪、ブサイクなら有罪という不条理なもの」という反論がありますが、イケメンなら無罪だと確定しているのではありません。同じことをイケメンがやっても無罪になる「場合がある」だけです。その逆もあり得ます。こんな頼りにならない根拠でコンプラアンス上重大な瑕疵(かし)となる行為をする方が愚かとしかいいようがありません。
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング