「自動運転」に王道はない池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年10月24日 11時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

自動車両制御のヒストリー

 クルマを運転するために操作するのは主にアクセルとブレーキ、それにハンドルの3つだ。もちろん方向指示器やライト、ワイパーが大事ではないと言う気はないが、それは重要度から言うと、階層が違う。

 最初に自動化のスタートラインに付いたのは電制スロットルだ。1970年代に日米で問題になった排気ガスによる環境問題に対応するために、自動車の燃料システムは電子式燃料噴射装置に切り替わった。排気ガスには炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)という3大有害ガスが含まれている。HCとは要するに未燃焼のガソリンだ。COは不完全燃焼して酸素が1つ足りない二酸化炭素。NOxは混合気の不均等によって燃料が足りない部分で加熱され、本来炭素と結び付きたかったのにやむなく窒素と結び付いた酸素である。

 以上のことから、酸素が十分にあればHCとCOは発生せず、燃料が十分にあればNOxは発生しない。つまり燃料と空気の混合精度を高め、なおかつ均等に攪拌(かくはん)させれば、有害ガスの発生は防げることになる。そこでまず空気の吸入量を精密に測定する仕組みが開発された。

 最初は空気がのれんを押し開けるような仕組みの流量計が採用されていたが、やがてそれは電流を流した電熱線の冷え方で吸気量を測定するホットワイヤー方式や、吸気流路の途中に置いた柱の後方にできる渦を超音波で測定するカルマン渦方式などの高精度な測定方法が確立した。空気の流れる速度だけでなく、気圧変化による空気の密度まで測れるように進歩したのだと思えば良い。

 さらに三元触媒が開発された。これは残念ながら空気と燃料の比率制御だけでは防げずに発生してしまったHCとCOに酸素を渡し、NOxからは酸素を奪い取る触媒だ。三種類の有害ガスに対して効果があるから三元触媒と呼ばれ、また酸化と還元の両方に機能するので酸化還元触媒とも言われる。

 この電子制御燃料噴射装置と三元触媒によって、排気ガスが激減した。日本車がグローバルマーケットで高く評価されるようになったのは、この排ガス浄化システムを世界に先駆けてものにしたからである。

 ところが、ドライバーのアクセル操作によっては、エンジンにとって都合の悪いアクセルの動きになる領域があり、排ガス浄化だけでなく燃費にも悪影響を与える場合がある。そこで、アクセルとスロットルバルブの物理接続を廃止し、電気ケーブルによる接続をする方法が現れた。この方法だと、クルマのコンピュータが判断して、ドライバーの意思を反映しつつも排ガスや燃費にデメリットを出さないように調整したアクセル操作ができるようになった。逆に言えば、ドライバーとスロットルの間にコンピュータが通訳として入ったことになり、必要があればコンピュータが人間に変わってアクセル操作できる下地が整った。

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