「自動運転」に王道はない池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2016年10月24日 11時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 自動運転への期待が高まっている。筆者ももちろん大きな期待を寄せている。10月10日の記者会見で、米テスラのイーロン・マスクCEOが、「ロサンゼルスからニューヨークまでハンドルに指一本触れることなく横断してみせる」と発言して話題になった。

 つくづく炎上マーケティングの好きな人なんだと思う。テスラの主張そのものは間違っているとは思っていない。ヒューマンエラーが付いて回る人間より、自動運転の方が安全になる日はそう遠くない。しかし、ポリティカルな問題はロジカルな問題と違う。米大陸横断実験をやると記者会見で発言して、炎上のタネを作らなくてはならない理由が心底理解できない。

テスラの新型車「Model 3」(出典:同社サイト) テスラの新型車「Model 3」(出典:同社サイト)

 そして質疑応答では、当然過去の事故の件を蒸し返されることになる。そうなるのは火を見るより明らかだ。にもかかわらず、「自動運転だけを取り立ててスキャンダルに仕立てるジャーナリズムが悪い」と批判するくらいなら、黙って地道に実験すればいいだけのことではないか? それとも「オートパイロット」利用中の事故(それがユーザーの過信にせよ)が起きても「リスクの軽減を目指しているのだから誰も騒ぎ立てたりするわけがない」と本気で信じていて、騙された気分なのだろうか?

 米大陸横断かどうかはともかく、自動運転に対する同種の実験は世界中の自動車メーカーがさまざまに取り組んでいるが、「ウチは他社に先駆けてこんな記録を作ってやるから見てろよ」などとわざわざ発表するメーカーはテスラ以外にどこにもない。

 騒ぎそうな相手に格好のネタをわざわざ振って、さらにそれを批判する。本気で自動運転の未来を切り開きたいのかどうかが疑わしい。少なくとも世界の趨勢(すうせい)が自動運転容認に変わっている現在、そうした発言が自動運転の未来にポジティブに作用する要素は1つもない。

 筆者は自動運転の到来を真剣に待ち望んでいるので、テスラのこういうやり方が自動運転推進派にとって獅子身中の虫ではないかと強く疑っている。技術の進歩をショーアップして話題作りにしようとするその姿勢がおかしい。

 さて、今回自動運転について書こうと思っているのは未来技術の話ではない。過去にどういう経過で自動車が発達してきて、それが自動運転へと繋がっていったのかについて振り返ってみたいのだ。それは地道な技術改良の積み重ねの先にこそ未来は開けるということを主張したいからである。

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