もしトヨタがドラッカー理論をカイゼンしたら池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2016年12月12日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 トヨタの変革のスピードが尋常ではなくなっている。

 矢継ぎ早に発表される新戦略。それをパズルに当てはめるたびに絵柄が変わっていく。1年も目を離していたら完全に姿を見誤ることになるだろう。もちろん変化がすべて良いことかどうかは分からない。ただ良いか悪いかはっきり分かるまで待っていたのでは時代の変化についていかれない。

 言葉にすると陳腐だが、トライしないところに成功はない。座して待つことは敗退を意味する。それが21世紀のグローバル企業経営だということなのだろう。

トヨタが事業案を公募するという“事件”

 今回発表されたのは「オープンイノベーション」企画の『TOYOTA NEXT』。端的に言うと、事業企画公募ということだ。もっと平たく言えば、「トヨタが持っているさまざまなヒト、モノ、カネ、情報を提供しますので、おもしろい事業プランを持って来てください」という話だ。

「TOYOTA NEXT」でトヨタが事業企画の公募を始めた 「TOYOTA NEXT」でトヨタが事業企画の公募を始めた

 元来、トヨタは徹底的に自前主義の会社で、サプライヤーに作らせる部品ですら、常に自分たちで設計生産できるノウハウを確立してから、外注していた。いつでも「御社の独自技術じゃないですよ」と言える。だから自前主義は譲れない。事業会社として利益率を最大化し、常に交渉を有利に進めるためにマウントポジションを常時確保するマッチョな戦略である。

 トヨタは事業の効率化やシェアの引き上げを目標に、「トヨタ生産方式」を営業や管理部門にまで拡大し、徹底して無駄を省き、資金回転率を高め、利益率を高めてきた。それはピーター・ドラッカーが米GMの研究から生み出した「マネジメント」の延長線上に確立したものだ。つまりマネジメントのカイゼン版が「トヨタ生産方式」だった。だが今また、トヨタはそれを企画立案にまで広げ、もう一度カイゼンしようとしているのかもしれない。

 トヨタ生産方式には極めて論理的な合理的精神があることは間違いないが、一方で合理主義の実現に際して弱者を踏みつけにして来た部分は少なからずあった。トヨタ生産方式の完成者である大野耐一氏の著書を読む限り、本来トヨタ生産方式は冷たいものではない。むしろ「人が大事」であるはずなのだが、トヨタ生産方式が、競争を勝ち抜くための方程式であると理解された途端、勝つための冷徹さがそこに忍び込んでいたのではないかと筆者は考えている。

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