新型スズキ・スイフトが国内外に与える影響池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2017年01月10日 06時45分 公開
[池田直渡ITmedia]

 2017年1月4日、長らくコンパクトカーのベストバイモデルの1つだったスズキ・スイフトがフルモデルチェンジして4代目になった。

2017年早々にデビューしたスズキ新型スイフト。スズキの小型車の中軸となる重要なモデルである 2017年早々にデビューしたスズキ新型スイフト。スズキの小型車の中軸となる重要なモデルである

 スズキの掲げる良品廉価を地で行くスイフトは、国内で多くのクルマ好きから支持されるのみならず、ハンガリー、インド、中国、パキスタン、タイなど新興国を中心に大きな支持を得て、2004年の初代モデル発売から11年5カ月で500万台の販売を達成したスズキの大黒柱の1つである。

 スズキのグローバル生産台数は年間286万台だが、地域別に見ると日本での販売台数は22.0%に過ぎず、インドを中心としたアジアで64.4%、欧州で7.2%、その他地域6.4%と販売の8割近くを海外でまかなう立派なグローバルメーカーである。先ごろのニュースで日本国内の乗用車総販売台数が500万台割れしたという情報が駆け巡った通り、今後は日本マーケットだけ見ていても自動車メーカーの経営が立ち行かなくなるのは明らかだ。やはりインドとASEANに加え、中国の非富裕層で販売できないと10年後が危うい。そういう意味ではスズキは国内メーカーの中でいち早く新興国マーケットへの備えを拡充してみせた優等生である。

スズキの高密度戦略

 スズキはグローバルマーケットで戦うに当たって、小型車、いわゆるABセグメントの商品密度を高くして、各国マーケット別に車両を作り分けて需要に対応してきた。インド、ハンガリー、パキスタン、タイ、インドネシア、中国に四輪車の製造工場を持つスズキだが、年販300万台の規模に到達するために大きな役割を果たしてきたのは特にインドの現地法人「マルチ・スズキ・インディア社」とハンガリーの「マジャール・スズキ社」だ。

 インドでは、軽自動車由来のシャシーに800ccクラスのエンジンを与えたアルト系の車両を中心に、現在でも40%近いシェアを誇っている。2位のヒュンダイが15%、3位のタタが12%、4位のマヒンドラ・マヒンドラが11%、5位のホンダが4%。2位から5位を合計してやっとスズキと互角という圧倒的な強さを見せている。

先代に比べてエッジを控えた丸みのあるデザイン。サイドウィンドーとリヤウインドーをつなげて見せるグラフィックは流行のデザイン 先代に比べてエッジを控えた丸みのあるデザイン。サイドウィンドーとリヤウインドーをつなげて見せるグラフィックは流行のデザイン

 スズキが世界中の自動車メーカーから注目されている理由は、このインドでの圧倒的なシェアと、インドの成長余力にある。インドの人口は12億人で、既に下降局面にある中国と異なり、まだ増加の流れにある。向こう20年で現在の中国と同等の2500万台マーケットになる可能性は十分にあり、仮にそのときスズキが現在と同等の40%のシェアを持っていたとしたら、計算上はインドだけで1000万台という途方もない台数をさばく可能性があるのだ。

 もちろんインドの経済成長につれて、多くのメーカーが進出しており、競争は激化の一途をたどっているので、このままのシェアを維持できる可能性は低いが、それでも地域にいち早く根付いたスズキの有利は明らかだ。

 振り返れば1990年代からのスズキの成長を支えたもう1つの柱があった。それはベルリンの壁崩壊以降急速にマーケットとして成長した旧東欧マーケットだ。フォルクスワーゲン・グループの急成長もこの東欧圏の成長に依存したもので、「ボーダレス」と言われた時代にグローバル経済に多大な影響を与えたマーケットである。スズキは、このマーケットでBセグメントのスイフト由来のシャシーを使い、より小型のボディを与えたスプラッシュを投入して戦ってきた。つまり同じAセグメントでもインドでは軽ベース、東欧ではスイフトベースと作り分けてきたのである。スプラッシュはGM傘下の独オペルとの共同開発車で、オペルブランドでは「アギーラ」として販売された。スズキにとってはこのオペルとの協業によって得られたサスペンションのセッティング能力は以後のクルマの性能を底上げする大きなターニングポイントになっている。

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