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王貞治に聞く、野球界「再設計」の真意 大谷ブームの裏で進む「スター頼み」からの改革(1/2 ページ)

» 2026年02月16日 07時00分 公開

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学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ

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【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。

 大谷翔平が世界を席巻し、その一挙手一投足に日本中が熱狂している。3月のWORLD BASEBALL CLASSIC 2026開催も間近だ。一見、日本の野球界は黄金期にあるように見えるかもしれない。

 だが実際には、日本の野球界はじわじわと縮小している。米MLBへの日本のスター選手流出によるプロ野球の空洞化、少子化とライフスタイルの変化による競技人口の激減──。

 この危機に、「世界の王」こと、王貞治が立ち上がった。王が中心となって2025年5月に設立した一般財団法人「球心会」の目的は、この課題解決にある。王が代表を務め、副代表には栗山英樹、サッカー界からは元日本代表の岡田武史を評議員に迎え入れ、スポーツ界の垣根を超えて野球振興に務める。

 経済界からは野村證券、ビズリーチ、さらには読売新聞グループや朝日新聞、電通と博報堂といった競合企業までもが手を組み、「日本野球の再設計」に挑む異例のプロジェクトだ。

 なぜ今、経済界の大手が王貞治の旗のもとに集うのか。王は企業との連携について、どう考えているのか? スポーツの枠を超え、地域と経済を巻き込むビジョンの全貌に迫る。(以上、敬称略)

photo 野球界の「静かな危機」に、「世界の王」こと、王貞治が立ち上がった(撮影:佐藤匡倫)

日本の野球が危ない 大谷ブームの裏で進行する“静かなる危機”

 危機感の根拠は数字に表れている。日本野球協議会 普及振興委員会の「野球普及振興活動状況調査2024」によると、日本の野球人口(競技統括団体に登録している選手数)は、2007年の161万3156人から2023年には93万9605人に激減した。わずか15年あまりで約67万人、率にして4割以上が消失した計算になる。

 特に深刻なのが、未来を担う小学生(学童)の野球離れだ。小学生の軟式・硬式野球及び全軟連の選手登録者数は減少。地方では部活動の縮小やチームの統廃合が相次ぎ、「野球をやりたくても環境がない」という負のスパイラルに陥っている。 

photo 日本野球協議会 普及振興委員会「野球普及振興活動状況調査2024」より

 原因としては、少子化問題やスポーツの多様化などがあげられる。だが王代表は、この逆境に対して「少子化だからこそ、やらなければいけないと私は思うんです。待っていても人が来ない時代に、どう野球を届けるか」と話す。

 この危機を突破するために設立したのが「球心会」だ。ミッションは「王貞治・大谷翔平を超えるような、世界を沸かすヒーローが生まれ続ける未来を作る」こと。

 そのために掲げたのが、プロ・アマ・学生・女子野球・ソフトボールといった、これまで 縦割りで分断されていた各団体を水平につなぐ「ハブ機能」の役割だ。球心会は具体的なアクションプランとして「BEYOND OH!PROJECT」を始動。「機会」「熱」「市場」「体制」という4つの柱を軸に、構造改革へと乗り出した。

 機会では、子どもたちが野球に触れ、楽しむ機会を創出する。野球ができる環境の確保や、誰もが手軽に野球を体験できるイベントを開催するという。熱では野球への興味や関心を高め、野球ファンや競技人口を増やす。野球の楽しさを伝え、子どもたちに夢と希望を与える世界的スターの輩出を目指す構えだ。

 市場では日本国内の野球人口減少や市場縮小に対し、新たな価値を創造する。野球を「産業」として成長させ、収益を環境改善や次世代育成に投資をし、好循環を目指す。体制・財源としてNPB(日本プロ野球)とアマチュア野球が一体となった組織体制を構築する。王代表の理念に共鳴した企業群である「ビジョンパートナー」などとの連携により、活動を支える持続可能な財源を確保するという。

photo 活動に向けた4つの柱(球心会のWebサイトより)

野村証券、ビズリーチ、電通・博報堂──呉越同舟のパートナーシップ

 BEYOND OH!PROJECTの推進力を担うのが、このビジョンパートナーだ。2025年12月、都内で開催したカンファレンスには、初期パートナーの錚々たる経営層が集まった。プラチナビジョンパートナーに野村證券、ゴールドビジョンパートナーにビズリーチ、ビジョンパートナーには朝日新聞社、エイジェック、オービック、電通、日本管財ホールディングス、博報堂、読売新聞社が名を連ねる。

 特筆すべきは、電通と博報堂、読売新聞と朝日新聞といった、通常であればライバル関係にある企業が名を連ねている点だ。業界の枠を超えた「呉越同舟」の連携は、球心会の取り組みが単なるスポーツ振興にとどまらず、持続可能な社会課題解決(サステナビリティ)のモデルケースとして期待されていることが分かる。

photo 王代表(手前中央)、栗山副代表(手前、右から2番目)とビジョンパートナーの代表者として各企業の経営層が集まった(撮影:篠原成己)

野球イベントを収益と活性化が回る「CSVモデル」へ昇華

 なぜ、企業は球心会に投資するのか。王代表に、企業の役割をどう考えているかを聞くと、「資金とリソース」の重要性を隠さない。

 「球心会の活動には、やはりお金がかかります。子どもたちと交流するグラウンドを借りるにも用具を配るにしても、です。それを現実にするには企業の力が不可欠なんです」

 ビジョンパートナーである読売新聞グループ本社の山口寿一社長は、「企業の直接連携」に可能性を見いだす。

 「野球に関わるのは団体だけではなく、社会人野球を続けてきた企業も多いのです。特に地方に拠点を持つ企業とは、団体の枠を超えて球心会が直接つながることによって、その地域に合った活動が可能になります」

 これは球心会のイベントを、地域経済の活性化や企業のブランド強化につなげる「共通価値の創造」(CSV)への転換を意味する。

 球心会の梅原美樹専務理事は、「50年後、100年後の未来に向かって整備をしていく必要があります」と強調した。企業とスポーツが共創する新たなビジネスエコシステムが動き出そうとしているのだ。

photo 王代表に、企業の役割をどう考えているかを聞くと、「資金とリソース」の重要性を隠さない(撮影:佐藤匡倫)
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