CxO Insights

王貞治に聞く、野球界「再設計」の真意 大谷ブームの裏で進む「スター頼み」からの改革(2/2 ページ)

» 2026年02月16日 07時00分 公開
前のページへ 1|2       

オムニチャネルで顧客開拓 「PLAY KIDS」と「プラットフォーム」

 これまで日本の野球界は、組織ごとに活動をしており、横断的な連携や情報共有は限定的だった。球心会は、野球団体の上位組織になるのではなく、中立的な立場で関係者を束ね、野球界全体を俯瞰した「設計」に踏み込んでいくという。

 加えて「実利」に基づいたマーケティングも展開する。その軸となるのが、未経験者層へのタッチポイントとなるイベント「PLAY KIDS」と、顧客をつなぎ止める「プラットフォーム構想」だ。

photo 「PLAY KIDS」が2025年11月15〜16日、東京ドーム グラウンドと東京ドームシティ ラクーアガーデンステージ・セントラルパークで開かれた。全国から約800人の児童が来場。野球未経験の子どもでも楽しめる親子で参加可能の企画が開催。王貞治代表の他、栗山英樹副代表、侍ジャパン井端弘和監督らが参加した
photo 子どもたちに野球の楽しさを伝える王代表(「PLAY KIDS」 東京ドーム グラウンド)。写真撮影にも快く応じており、子どもたちや保護者にとっては、野球がさらに身近なものに映っていたようだ

 PLAY KIDSは、未経験の子どもたちを主な対象とした体験型イベントだ。2025年11月に東京ドームで開催された同イベントを取材すると、王代表自らが1時間以上、さまざまな運動を楽しむ親子に交じり、交流していた。あえて野球の競技性を排除し「楽しさ」に特化することで、野球への「怖い・難しい」という心理的ハードルを下げる狙いだ。

 しかし、イベントはあくまで「入り口」に過ぎない。課題は、興味を持った子どもと保護者をどう「継続」させるかがだ。

 理念や構想だけで競技人口が増えるわけではない。子どもが「野球をやってみたい」と思った後、どこで、どう始め、どう続けるのか。その現実的な導線を用意しなければ、裾野拡大にはつながらない。そこでカギを握るのが、DXを活用した「球心会プラットフォーム」だ。

キーマンは「お母さん」」 “負のイメージ”を払拭する意思決定プロセス

 球心会プラットフォームは、野球関連情報ポータルサイトと、保護者向けコミュニティサイトからなる。単なる情報サイトではない。「野球に触れる機会づくり」と「情報・コミュニティのハブ機能」を一体で担い、子どもと保護者、指導者、野球団体をつなぐコミュニティハブを目指す。

 このプラットフォームは、単なるイベント告知サイトではない。「野球に触れる機会づくり」と「情報・コミュニティのハブ機能」を一体で担うところにある。王代表は、球心会の役割について以下のような考えを示した。

 「特に今の時代は情報の時代です。全国津々浦々に野球チームがありますので、全てに情報が伝わるよう皆さんに情報を提供するという役割を担います。各組織のみなさんに頑張っていただいていますので、私は全国にその情報を発信し、そのためにこの球心会があると思っています」

 イベントで興味を持った子どもや保護者を、いかに次の行動につなげるのか。球心会が重要視しているのは、イベントを「入口」で終わらせないことであり、そのためにもプラットフォームの運営がカギを握る。

photo 球心会プラットフォーム・野球に取り組めるための情報発信や伝達の仕組み(球心会のWebサイトより)

 この構想の特徴は、少年野球の参加において最大の意思決定者(キーマン)である「母親」をメインターゲットに据えた点だ。王代表は「少年野球で、最終的な意思決定をするのはお母さん」と話す。例えば、イベントでは子どもだけでなく父母も参加でき、体を動かしてもらうようにしている。

 「(その際に)お母さんが打って走る姿を見ると、“よし、野球の楽しさが伝わったな”って思うんです。お母さんが楽しいと感じれば、必ずまた子どもと一緒に来てくれますから」

 保護者が抱える悩みは多岐にわたる。指導方針の相性、怪我や安全面への不安、活動のための費用負担、送迎や当番といった時間的制約。SNSや検索を通じて断片的な情報は得られるものの、信頼性や網羅性に欠け、かえって不安を増幅させるケースも少なくない。

 球心会のプラットフォームでは、情報を提供すると同時に、野球少年少女を持つ保護者のお悩み解決の一助となる「ママブログ」などのコンテンツや、保護者同士のコミュニティ機能を提供。情報の非対称性を解消し、孤立しがちな保護者をサポートすることで、競技継続のハードルを下げる狙いがある。

photo 球心会プラットフォーム「ママブログピックアップ」より

スター頼みの「奇跡」を待たない 50年後を見据えた“共創のエコシステム”

 球心会の試みは、スポーツの未来を個人の才能やブームに依存するのではなく、社会システムとして「設計」し直そうとするものだ。「ビジョンパートナー」の枠組みでは、単なる協賛ではなく、こうした仕組みづくりそのものに企業が関与している。

 人口減少時代では、スポーツの未来を個々のスター選手や一時的なブームに委ねることはできない。必要なのは、「続けられる環境」を社会システムとして設計する視点だ。

 企業がスポーツに投資することは、次世代との信頼関係を築くための重要なチャネルとなる。「王貞治」という日本を代表する偉人をハブとして、競合企業が手を組み、地域と家庭を巻き込んでいく。この「球心会モデル」が成功すれば、野球界のみならず、日本のスポーツ産業、ひいては縮小社会におけるビジネスモデルの新たな指針となるはずだ。

 「来てくれるのを待つのではなく、自分たちから投げかけると。この姿勢で、これからやっていきます」(王代表)

photo 「球心会モデル」が成功すれば、日本のスポーツ産業における新たな指針となるはずだ(撮影:佐藤匡倫)

【イベント情報】学研が挑む"真のDX"

学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR