愛嬌のある笑顔とは裏腹に、独自の視点と歯に衣着せぬ発言を武器に、野球解説者、タレント、そしてYouTuberと幅広く活躍している男がいる。かつて千葉ロッテマリーンズの正捕手として活躍し、第1回のWBC(ワールドベースボールクラシック)では、4割を超える打率と強気のリードで、侍ジャパンを世界一に導いた里崎智也だ。
現役時代から頭脳派捕手として知られ、組織論のスペシャリストでもある里崎は、将来、「千葉ロッテマリーンズの社長になりたい」と公言するほど、ビジネスへの感度が高い。そんな里崎に、スポーツビジネスの観点から、日本のプロ野球ビジネスの「オモテとウラ」を聞いた。
――プロ野球の現状について話を聞かせてください。ホリエモンこと堀江貴文さんは、JリーグやBリーグの経営で一番大切なのは「年に1〜2回しか見に来ない人を、いかにまた来させるか」だと言い、(関連記事を参照)「スタジアムに結界ができている」と表現しています。新しい客層がスタジアムに足を運びづらいのではないかとも言われていますが、これについてどう思いますか?
堀江さんの話は、Jリーグの話ですよね。いまプロ野球界の観客動員数は、右肩上がりで増え続けています。2019年も、史上最多の観客動員数を更新しました。横浜DeNAベイスターズの試合は「チケットが取れない」といわれているほどで、どのチームも集客は好調です。
――確かに、野球のビジネス環境は好調ですね。要因はどこにあると思いますか? また、里崎さんは引退してから丸5年が経(た)ちましたが、野球を外から見るようになって、あらためて気付いた野球の魅力をどのように感じていますか?
少し前に、川崎フロンターレ対チェルシーの試合(19年7月19日に日産スタジアムで開催)を見に行きました。僕はそれほどサッカーのことは詳しくないのですが、まず感じたのは、どの選手が誰なのかが全く分からないということでした。サッカーの場合、ビジョンに選手の名前と背番号が常に表示されているわけではないので、スマホで調べなければなりません。そのうえ選手が目まぐるしく動くので、目で追うのが大変で、見づらさを感じました。
――なるほど。確かにサッカーと野球を比べるとそういう差はありますね。
次に感じたことは、ジュースやビールを飲みたくなっても、スタンドに売り子さんがいないことです。ハーフタイムになるまで飲み食いができず、さらにハーフタイムになった途端に、数少ない売店には長蛇の列ができていました。僕は子どもと一緒に見に行ったので、かき氷を買いましたが、席に戻るころには、後半20分が過ぎていました。
その点、野球はピッチャーとバッターによる1対1の勝負なので、「誰と誰」という構図が、初心者にもはっきり分かります。加えて、常に出場している選手の情報がビジョンに表示されているので、選手のことを知らなくても、楽しむことができます。飲食についても、スタンドには売り子さんがたくさんいて、手を挙げればすぐに来てくれます。席に座ったまま完結できますし、お客さんには優しいスポーツだと感じますね。
また、野球には、プレーとプレーの間に「間」があるので、食べながら見たり、誰かと話しながら見たりする「ながら見」が楽しめます。最近は、ファミリー席やボックス席のように、グループで来てみんなで楽しめる席ができるなど、新しい観戦スタイルも好評を博しています。
――平成の時代には、プロ野球はさまざまな改革がありました。特に、いろんなタイプの座席ができたのは、球界再編の動きの中で、ソフトバンクや楽天などの新興IT企業が入ってから大きく変わった印象がありますが、里崎さんはどうお考えですか?
新しく球場を作り直したところはやりやすかったのではないでしょうか。逆に既存の球場は難しかったと思います。
もちろん、やみくもに席を増やせばいいかと言うと、そうではありません。利益を追求するのか、それとも野球の質を追求するのかを見極める必要があります。例えば、利益を追求してお客さんを増やそうとすると、席をグラウンド内に増やすしかないため、結果的にファールゾーンは小さくなっていきます。すると、バッターが有利になるわけです。
最近は、外野にテラス席を作っている球場が増えていて、これも入場者数は増えるものの、その分ホームランが出やすくなるわけです。利益を追求しすぎると、球場自体が変わり、野球の質も変わってくるんですね。それが善なのか悪なのかについてはさまざまな意見があるので、どちらが良いとも言い切れないところがあります。
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