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WBCで日本を優勝に導いた里崎智也が語る「プロ野球ビジネスのオモテとウラ」里崎智也インタビュー【前編】(2/4 ページ)

» 2020年01月31日 05時00分 公開
[瀬川泰祐ITmedia]
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制度のメリットとデメリットを踏まえて議論すべき

――興行収入の面ではメリットがあっても、質の面ではデメリットになりかねないということですね。興行収入という点では、19年もリーグ戦で2位だった福岡ソフトバンクホークスが、(シーズン上位3球団によって行われるトーナメントである)クライマックスシリーズを制し、そのまま日本一に輝きました。このクライマックスシリーズという制度をどう思いますか?

 クライマックスシリーズへの出場権が与えられる3位以内に入るために、シーズン終盤まで試合が盛り上がることは、お客さんにとっても、選手にとっても良いことです。消化試合がなくなって真剣勝負が増えると、選手も張り合いが出ますからね。僕は消化試合を経験したことがありますが、早ければ8月中旬から1カ月半も消化試合をしなければなりませんでした。それでは選手たちにとっては張り合いがないですよ。

 しかも消化試合になると、選手たちは、自分の成績を上げることだけに意識が向くので、自己犠牲の精神を出さなくなります。なぜなら、自分の成績を下げたら給料も下がってしまうからです。こうして、みんながチームのことよりも自分の成績を優先するようになってしまうと、結果的には野球の質が下がってしまいます。

――クライマックスシリーズにはメリットもあるということですね。

 メリットだらけですよ。毎回「また1位じゃないチームが優勝した」という意見が出ますが、19年のメジャーリーグだって、(各地区1位を除いた12チームのうち勝率の高い2チームにポストシーズン進出権を与える制度である)ワイルドカードのナショナルズが、ワールドチャンピオンになっています。それでも、アメリカ(米国)では「お前らワイルドカードだからダメだ」なんて誰も言いません。

――制度には、オモテとウラがありますが、その両面をしっかり理解して議論する必要がありそうですね。クライマックスシリーズ以外にも、制度の面で意見が出るのが(どの球団とも選手契約を締結できる権利をもつ選手である)FA(フリーエージェント)についての制度です。FA制度のことはどうお考えですか?

 選手にとってはプラス以外の何物でもありません。FAができたことによって、選手の年俸が高騰するので。自由な市場では競争の原理が働くので、買い手が増えれば、選手の年俸が釣り上がるじゃないですか。

――一方でFAが使える人はごく一部で、そこまでたどり着けない人もたくさんいますが、その格差はどう考えますか?

 それは仕方のないことだと思います。全員が幸せになれるルールなんてありませんから。その幸せになれるルールを使いたければ、それ相応のステージまで上がっていかなければならないということです。

――FA制度をメジャーリーグと同じようにした方が良いという意見もあります(メジャーの場合は、在籍期間6年でFA権を得る。一方、日本の場合は、FAの資格を取得しても、権利行使を宣言しない限りは効力が発効されない)。

 日本のプロ野球界は「FAするもの」、メジャーリーグは「FAになるもの」と表現することがあります。日本では宣言することによって初めてフリーエージェントとなるのですが、メジャーリーグは、全員が自動的にフリーエージェントになって、自由市場に放り出されるんです。

――アメリカと同じ制度にした方が選手の年俸も上がり、移籍市場が活発化するという意見もありますが。

 「日本もメジャーリーグみたいな制度にすればいいのに」と言う人はたくさんいますが、そのような人は、デメリットに気が付いていない人がほとんどです。メジャーリーグと同じ制度にすれば、全員の年俸が上がるというわけではなく、むしろその逆で、契約してもらえない選手が増えるということなんです。

 現行の日本のFA制度の場合、宣言しなければクビにならない限り雇ってもらえますからね。それでもあえてFA宣言をする選手は、契約先がなくなるかもしれないというリスクを背負っているということ。そういった覚悟を持ってFA宣言をした選手の判断は、最大限に尊重されてしかるべきだと思います。

phot

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