「同一労働同一賃金」は、新しい実力主義モチベーションの低下を防げるか(1/2 ページ)

» 2017年02月01日 05時30分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

 組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)

 1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。

京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)


 処遇は、公平が重要だ。しかし、責任・成果・職務の難易度・能力の違いなどを評価・測定し、具体的にどれくらいの差をつけるのが公平なのかを決めるのは難しい。公平というコンセプトは分りやすいし、「もっと公平に」と文句をつけるのも簡単だが、それらの差を数値化して給与・賞与・等級に反映したときに、誰もがうなづき納得するような結果が得られるような仕組みづくりは、無理といっていいくらいだ。

 配偶者・子供・住宅・資格・勤務地などに対する手当も多くの会社で支払われるが、これらは存在そのものが公平かどうかという議論の対象である。超過勤務手当にしても、それが効率の悪さの結果であったり、成果につながるはずのない内容であったりすれば短時間で成果を上げた者との公平性を損なってしまう。

 このように、さまざまな状況に目配りしながら公平を保とうとすると、処遇制度はどんどん複雑になっていく。どういう経緯・背景でできた仕組みなのかが、人事部員でさえ分からなくなってしまうほどだ。

 従業員も、どういう評価によってこの額になっていて、どんな手当がついているのかが分からなくなっている人が多くなる。複雑だから、どう頑張ればどれくらい報酬が上がるのかもよく分からない。

 その結果、使命や目標や職場環境といった動機づけはあるにしても、報酬による動機づけが弱まってしまっている。公平な処遇制度が持つ複雑さが、モチベーションの低下を招いていると言えるだろう。

 複雑さを払拭(ふっしょく)すべく登場した「成果主義」「実力主義」は、「公平」に替わるコンセプトだったがうまくいかなかった。当時は、報酬は業績に連動する(給与・賞与は利益配分である)とすれば、モチベーションも向上するはずという理屈だったが、報酬が不安定になると従業員が不安を感じ、逆にモチベーションは低下すると考えられるようになった。

 ある程度の水準で安定しているのが、人は幸福感を感じるという指摘もある。そうして現状の処遇制度は、生活給という側面を残した複雑さを抱えながら、以前よりはやや利益配分の割合が大きくなった程度に収まっている。

公平な処遇制度が持つ複雑さが、モチベーションの低下を招いている(写真と本文は関係ありません)
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