地味な技術で大化けしたCX-5池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年02月20日 07時22分 公開
[池田直渡ITmedia]

 次はパワートレインの制御精度をどうやって上げたかだ。元々SKYACTIV-D 2.2が良いエンジンだったのは既に書いたが、スムーズになっただけでなく、扱いやすくなっている。元々SKYACTIV-D 1.5に比べて排気量に無理がないことと、大小の2ステージターボの採用によって高い素養を持っていた。ディーゼルは小排気量化が難しいし、低速トルクの要求が高いケースが多いので、踏み始めの過給遅れがクリティカルになりやすい。

ステアリング系は大幅にリファインされた。しっかりとした操舵感と正確なフィールをダイレクトに伝えながら振動を上手く遮断することに成功している ステアリング系は大幅にリファインされた。しっかりとした操舵感と正確なフィールをダイレクトに伝えながら振動を上手く遮断することに成功している

 SKYACTIV-D 1.5ではコストの制約から、可変ベーン型のシングルターボを採用しており、これはこれで限られた中では頑張っていることは認めるが、2ステージの2.2と比べてしまうと、低速からのツキでも、遅れた過給の山による加速変化でも洗練度にはちょっとではない差がある。

 ところが、その優等生の2.2がさらに良くなってしまった。エンジニアに聞くと大変興味深いことを教えてくれた。アクセルオンの最初に吸い込ませる新気の量をいかに増やすかがメインの対策だ。新気が多ければすぐ排気の量が増えて、過給圧が上がる。逆に新気が少なければ過給圧の上昇遅れはどんどん累積する。さらに、アクセルを踏んだとき、わずかでもドライバーに反応を返すことをまず考えたのだと言う。

 スマホのアプリアイコンをクリックしたとき、ブルッと反応させるのと同じ理屈である。実際にアプリが立ち上がるまでの時間が変わらなかったとしても、最初に「了解」という反応が返ってくれば人は安心する。アクセルを踏んでも無反応だと、さらに踏み足し、本当に加速が始まったときには踏みすぎていて、運転がぎくしゃくする。

 人はクルマの操作に際して、このくらい入力すれば、このくらい反応するだろうと予測して操作を行い、操作に対するレスポンスを見て修正する。この予測値が人の経験値と合わないと過剰操作を呼び、反応に対して大きな修正が必要になる。言うことを聞かないクルマは概して大きく重く感じるものだ。そういう部分を見直したことでパワートレインの制御能力が向上したのである。

エンジンは過給の精密制御によって、初期レスポンスを向上させ、速度制御がより簡単高精度に行えるようになった エンジンは過給の精密制御によって、初期レスポンスを向上させ、速度制御がより簡単高精度に行えるようになった

 直進安定性の向上はGベクタリングコントロールの恩恵が大きい。これはエンジンの制御によって、前後輪への重量配分を微細にコントロールする技術で、アクセルで反応をしっかり返すようにしたのと同じことをハンドル操作でも行う技術だ。これにより操作の頻度と量が減り、あまり余計な操作をしなくても真っ直ぐ走る。このGベクタリングコントロールはコーナーリングの際の挙動の乱れにも大きく効果を挙げていた。

 旋回中の路面のうねりによって、外側前輪の荷重が抜重してしまうようなケースがある。路面がストンと下がっているようなケースだ。それまで平らな路面で踏ん張っているタイヤは、直進に戻ろうとする「セルフアライニングトルク」によって、ステアリングに反力を返す。ドライバーはこの反力の強さによってタイヤのグリップを計っているのだが、路面のうねりによって、抜重してタイヤのグリップが抜けると、ステアリングの反力も抜ける。一瞬にして頼りなくなり、タイヤの垂直荷重が抜けることで、横力が減ってクルマは外へはらもうとする。

Gベクタリングコントロールは、どんなドライバーでもクルマを手足の延長のように動かせるようにした。近年まれな自然な電制技術だ Gベクタリングコントロールは、どんなドライバーでもクルマを手足の延長のように動かせるようにした。近年まれな自然な電制技術だ

 ところが、次にうねりの坂を下り切った途端、タイヤの垂直荷重は急激に増える。これを時系列で見ると、タイヤの働きをしっかり確認できて思うように曲がれているところから、急に手応えが消えて外へはらみ、次に一気に手応えが増えると同時に、今度は内へ巻き込もうとする。タイヤは路面という外部要因によって、その機能通り仕事をしているのだが、ドライバーはその調整で緊張を強いられるのである。

 こういう場面でGベクタリングコントロールは、変化を減らすように働きかけ、ドライバーの不安を消す方向に作用する。もちろんこうした反力の増減が完全に消えるわけではないが、有るとないとでは大違いである。

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