幕が上がった! シンギュラリティ「序章」

AIが働かないと私たちは貧しくなる“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)

» 2017年04月13日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

 日本では若年層人口の減少が進んでおり、これがさまざまな問題を引き起こしていることは多くの人が認識している。例えば、このところ長時間労働が社会問題化しているが、これも密接に関係している。特に外食や小売といった業界は、労働力の中心が若年層労働者であることから影響は大きい。以前、牛丼チェーンの「すき家」で、深夜の1人運営体制(いわゆるワンオペ)が批判されたが、この問題も結局は若年層の労働人口減少に行き着く。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2040年の総人口は1億728万人と現在より15%ほど減少する見込みであり、いよいよ総人口の減少が本格化してくる。しかも、60歳以上の人口はまだ増加が続き、2040年には今より374万人多い4646万人になる。一方で、企業の労働力の中核となっている35歳から59歳までの人口は、現在との比較で何と26%も減少してしまう。次の20年間、日本社会は中核労働力の減少という深刻な事態に直面するのだ。

photo 年齢区分別将来人口推計(出典:総務省「国勢調査」)

人手不足で負のスパイラルに陥る可能性も

 若年層労働力が減少した結果、外食や小売といった分野では人手不足が深刻化し、サービス残業など社会問題を深刻化させた。電通の過労自殺事件も同じような文脈で考えることができるだろう。だが、今後は同じようなレベルのインパクトが、あらゆる業界に及ぶことになる。このまま何も対策を打たない場合、今まで以上に人手不足が原因で業務を継続できなくなる企業が出てくるだろう。

 企業が労働者の不足によって生産を抑制するようになると、経済はどうなってしまうのだろうか。考えられるのは供給制限による経済のシュリンクである。

 経済というものは、企業がモノやサービスを生産し、これを消費者が購入することで成り立っている。企業の労働者は消費者でもある。モノやサービスが売れることで労働者は賃金を受け取ることができ、その結果として、消費にお金を回すことができる。

 労働力不足で企業が供給を制限すると、モノやサービスが足りなくなってインフレを誘発する。モノやサービスの内容が変わらず値段が上がるので消費者の購買力は低下し、これが企業の業績を悪化させる。企業の業績が悪くなると賃金が下がるので、労働者が消費に回すことができるお金は減少する。場合によっては、需要不足がさらに生産を縮小させるという負のスパイラルに陥る可能性も否定できない。

 こうした状態を回避するためには、労働者の総数を増やして生産を維持するか、生産性を向上させ、少ない人数で同じ生産を実現できるよう工夫するしか方法はない。労働者の総数は急には増えないので、前者を採用する場合には、外国人労働者を受け入れるということになる。

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