解決してきたから、「アンメルツ」は選ばれ続けたロングセラーを読み解く(1/3 ページ)

» 2017年04月28日 06時00分 公開
[ITmedia]

ロングセラー特集:

 生まれては消えて、消えては生まれる――。スーパーやコンビニの棚を見ていると、慌ただしく商品が入れ替わっている中で、何十年も消費者から愛され続けているモノがある。その歴史を振り返ると、共通していることがあった。それは「業界初」というリスクを抱えながらも、世に商品を送り出したことだ。何もないところから、どのようにして市場をつくってきたのか。また、競合商品が登場する中で、なぜ生き残ることができたのか。その秘密に迫る。


社員の失恋から生まれた肩こり薬

 2016年に、販売から50周年を迎えた小林製薬の肩こり薬「アンメルツ」シリーズ。1974年に肩や背中への塗りやすさを追求した「アンメルツヨコヨコ」を、86年には女性をターゲットに“無臭”を実現した「ニューアンメルツヨコヨコ」を販売するなど、多様なニーズに対応した新しいアンメルツを世に送り出し続けてきた。現在、販売本数はシリーズ累計で2億本を超えている。

photo シリーズ累計で2億本を販売したアンメルツシリーズ

 そんな同社の主力製品であるアンメルツシリーズ誕生のきっかけは、「社員の失恋」だったという。

 60年代前半のある日、同社の男性社員が肩に貼り薬(湿布)を貼ったままデートに向かった。デート中、相手の女性から「年寄り臭い」「かっこ悪い」「ダサい」と幻滅され、振られてしまったそうだ。

 当時の肩こり薬といえば、湿布などの貼り薬が一般的。薬品臭も強く、洋服の下に貼っていてもすぐに気付かれてしまうようなモノだった。そこで、その男性社員は失恋をきっかけに「見えない(気付かれない)肩こり薬」を作ろうと発案。こうして液体を軸にした肩こり薬、アンメルツの開発が始まった。

「使い勝手」の追求したラバーキャップを開発

 小林製薬がアンメルツシリーズにおいて、変わらずこだわり続けているのが「使い勝手の追求」である。

 60年代前半にも塗り薬はあったが、マニキュアのように刷けを使って塗るタイプものしかなく、液体の入った容器(小瓶)を倒さないよう気を付けながら使う必要があった。「もっと使い勝手を良くしたい。片手で手軽に塗ることができる商品を作れば売れるかもしれない」――。

 そう考えて開発されたのが「ラバーキャップ」だ。

photo 初代「アンメルツ」

 ラバーキャップは円形にカットしたスポンジを容器の口にはめ込み、肌(患部)に押し付けたときに適量の液体が出るようにしたものだ。このラバーキャップこそがアンメルツシリーズの心臓部分であり、開発に置いて最も苦労した点である。

 開発当初、「片手で手軽に塗れる肩コリ薬」のコンセプトを実現するため、スポンジの活用を試みたが、通常のスポンジでは液体が出過ぎてしまう課題があったという。そこで開発チームは、通常よりも密度を濃くした特殊なスポンジを独自に開発。液体の出る量を抑えた。

 また、容器の入り口(スポンジ下部分)に蓋を入れることで容器が倒れても液体がこぼれないように設計した。蓋にはバネを活用しており、スポンジ部分に圧力をかけたとき(塗るとき)にのみ、開くようにようになっている。この仕組みによって、液体をこぼす心配をなくし、従来の液体塗り薬が抱えていた「使いにくさ」を払拭(ふっしょく)した。

 こうして世界初のラバーキャップが完成。今でこそ、ラバーキャップを取り入れた商品は数多く存在するが、それを最初に開発したのが同社である。66年に商品化すると、その利便性の高さが受け入れられ、大きな支持を獲得した。

 販促は社を上げて取り組んだ。社員一人一人のアイデアを募集して作ったPOPを各薬局に配り歩き、電話応対では「“アンメルツ”の小林製薬です」と名乗ることを全社で統一させた(ちなみにこの他にも、「“ブルーレット”の小林製薬です」や「タフデントの小林製薬です」と名乗っていた時期もあるという)。

 こうした部門横断の取り組みもあって、初代アンメルツは瞬(またた)く間に主力商品へと成長していった。

 「ここまで熱を入れて取り組んだのはこのときが初めてですね。それまでは卸売りを事業の柱としていましたが、今後、会社が生き残っていくためにも自社製品の開発が課題になっていました。ですから、当社にとっては社運をかけた一大プロジェクトでもあったのです」(小林製薬)

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