ガソリンエンジンの燃費改善が進んだ経済的事情池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2017年07月03日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

金本位制の終わり

 実際、時代はその通り進んでいくのだ。その証拠に戦後世界経済の基盤となったブレトン・ウッズ体制は、26年後の71年にニクソン・ショックによって瓦解する。世界経済が復興を果たし、力を付けてくるにつれ、米国は一人勝ちができなくなった。その結果、ドルを裏付けていた金の保有量が低下し、米国といえども金兌換を継続することが不可能になっていく。

 金本位制のメリット、デメリットはわりとはっきりしている。通貨の信用を口約束ではなく、物理的担保として金が保証しているから極めて信頼性が高い。一方で、通貨の発行量そのものが金の保有量に拘束される。多少の変動はあるとしてもレートで金兌換を保証しているのだから、常に通貨の発行量以上の金を保有している必要がある。保有量が不足していることがバレれば、兌換の信頼性そのものが崩壊し、それは世界中の通貨の信頼失墜につながる。そうなれば世界経済そのものが崩壊する。つまり金は時に通貨の信頼の源であり、時に制約になるのである。

 政府の経済政策の基本は通貨量のコントロールだ。それがインフレやデフレをコントロールするメインエンジンとなるからだ。原則的には市場にある富と通貨の量がどちらに傾くかによってインフレとデフレが起きる。模式的に世界の富がりんご100個だとしよう。それに対して通貨総量が1万円であれば、りんご1個は100円だ。ところが生産量が増加してりんごが200個になれば、世界の通貨を全部投入してもりんごの単価は50円になってしまう。だからりんごが2倍に増えたら、中央銀行はそれに対応して通貨も2倍の2万円にしなくてはならない。だから、インフレになれば通貨流通量を絞り、デフレになれば増やす。通貨量は物価の調整弁なのだ。

 後に「流動性の罠」という現象が認識されるまで、通貨流通量は明確な経済の制御装置となっていたのだ。流動性の罠に関してはさすがに冗長になるので、気になる人は検索して調べてほしい。

米国車の全盛期は50年代。写真は59年のキャデラック(出典:Wikipedia) 米国車の全盛期は50年代。写真は59年のキャデラック(出典:Wikipedia

 さて、この状況下で金本位制の弱点とは何か? 当時の米政府は、政府自身のプライマリーバランス不均衡による財政赤字と、貿易超過による国際収支の赤字を主因とする深刻なインフレに苦しんでおり、伝統的手法、つまり市場金利を引き上げて通貨の流通を抑制することで鎮静化を狙っていた。

 しかし、その政策の結果、固定された為替レートが他国の金利に比べて米ドルが突出して高金利という状況を生み出し、金の流出を招いてしまった。この場合最も有用な防衛策は、為替レートをフレキシブルに変動させて金利差を打ち消す手法だ。ところがブレトン・ウッズ体制で為替レートは固定されている。だから投機家は、政府を一方的になぶり者にできてしまう。これは経済システムのエラーだ。

 限定された状況で、政府の採れる金の兌換レート変更は小幅かつ一方向、投機家は政府の逆を突けば必ず勝てる。そして勝てばボロ儲けできる。この戦いの果てに、アメリカは膝を屈して金本位制を諦め、以後世界の通貨はドルに対して変動相場制へと変わっていく。

 ブレトン・ウッズ体制を引き継いだスミソニアン体制では変動相場制移行に際し、為替の安定、ひいては世界経済の安定のためのさまざまな試行錯誤が繰り返された。現在の世界経済は、決して成功したとは言えないこの時代の無数のトライアンドエラーから生み出されたものだ。

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