サイバーエージェント社長が実践する「強い組織」の作り方夏目の「経営者伝」(3/3 ページ)

» 2017年10月09日 06時00分 公開
[夏目人生法則ITmedia]
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「信じていないと何も始まりませんよ」

 そんな藤田氏に次世代へのアドバイスを聞くと、彼はこんな話を始めた。

 「世の中の経営者を見て『すごい人だ』というところから入っちゃいけないと思うんです。それ、自分でハードルを上げてますよ。別にすごくないんです、実際。特別視をしてはいけない」

 いや、待ってほしい。先見性、マネジメントから、単なる労働量まで、藤田氏本人が群を抜いているではないか。

 「いや、順番が逆なんです。先日、サッカーの本田圭佑選手の言葉を聞いて思いましたが、まず、大きなことを言ったほうがいいんですよ。僕はこんな大きなことをやりますよ、目指しますよって。ただ、責任感があるとそれが邪魔してなかなか大きいことって言えないですよね。でもそれは逆で、言った後に、それをどう実現させるか、どう責任を取るか、なんです。仮にそれが半分しかできなくても、何もしないよりは、ある程度成功できるわけですし。若いうちはそれでいいと思うんです」

 なるほど、確かに優れた起業家を見ていると、ネジが1本飛んでいる人物が多い。

 少し遠回りするが、京都の三十三間堂(仏堂)は現代の言葉で言えば「免震構造」になっているという。木組みに少し余裕があって、ごく簡単に言えばしっかりくっついていないから、地面が揺れてもしなやかに揺れを吸収し、今も壊れず立っている。同様に、失敗をイメージしないからか、鈍感だからか、大きなことを為す人間は、むしろ何かが足りない。

 「もちろん、単なる冒険野郎じゃいけません。僕は、重要な決定をするとき、普通に話したり歩いたりしながら、息をするように決めています。どこかにこもって何日も考えて決めるわけじゃなく、日々の仕事の中の経験から“行ける”と思って決めているのです。今までの経験値があるからであって、何も無謀な挑戦を進めているわけではないんですよ」

 彼が話す「経験値」とは「状況を見抜き、実現する力」と言い換えられるだろう。そういえば藤田氏は、子どもの頃から将棋やオセロが好きだった。「理詰めで勝ちに向かう道筋を作っていく作業が楽しかった」らしい。さらには、中学生のときにバンド活動を始め、同時に彼は生徒会長にもなった。学生バンドにとって学園祭は非常に大きなステージだ。ならば学園祭を仕切る立場に……と考え、その布石を打ち、自分のビジョンを実現したのだ。

 もしかしたら、そんな「実現する力」が積み重なり、彼は「先に大きな目標を立て、宣言する」ことができる人間になったのではないか?

 「それはそうで、自分を信じていないと何も始まりませんよ」

photo 自社の歩みについて講演をする藤田氏

 シンプルな言葉だが、彼の言葉は、こう問うているのかもしれない。普段から、自分を信じることができるような結果を出しているのか、と。そう、彼が子会社の経営に口を出さないのも、目先の利益を願うより、部下が「社長無しでもいける!」と自分を信じられる人間に成長するよう、あえて目をつぶっているのだろう。

 そんな彼だから、当然、自分の事業も強く信じている。ネットに「AbemaTVって赤字なんでしょ?」と書かれても、それは今だけの話で、むしろ必要な投資。高いハードルは、いつか成功したあと高い参入障壁になる。そして、自分には実現できる、と。

 だから藤田氏は、やっぱり『AbemaTV』の話をすると、顔をくしゃっとさせ、本当に楽しそうに話すのだ。

 「『『AbemaTV』は、数年後にはみんなが見てくれるメディアにするつもりでいますし、そうなってくれたらうれしいからやってます。やっぱり“多くの視聴者がいるメディア”って強いですよ。だからバラエティでもドラマでも、とにかく自分自身が見たいと思える番組をムキになって作っています。こうして、注目が集まる番組をどんどん創っていけば――」

夏目の「経営者伝」(藤田晋氏編)

 →第1回 サイバーエージェント社長が明かす「新規事業論」

 →第2回 藤田社長が「AbemaTV」に“ムキになる”理由

 →第3回 本記事


著者プロフィール

夏目人生法則

1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は『掟破りの成功法則』(PHP研究所)、『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。


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