日産とスバル 法令順守は日本の敵池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年11月06日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

メーカーの品質担保手法

 現実はどうか? メーカーの生産現場へ取材に行ったことがあるが、すべての部品の組み付け段階で、厳密なチェックが行われている。

 必要な部品が部品トレーから取り出されたか、その部品を取り付けるために適正な工具は作動したか、組み付けに油脂類が必要なら、その油脂のフィラーはホルダーから取り上げられたか。そして組み付け段階が終わるとロボットアームに取り付けられたカメラがグルグルと周囲全方位から撮影し、リアルタイム画像チェックによって部品の位置と角度が適正かどうかが判別される。それもすべての工程ごとにリアルタイムでチェックされ、異常があればラインは止まる。

メーカーでの品質チェックの様子 メーカーでの品質チェックの様子

 生産効率が高い工場であればあるほど、ミスが起きたら、瞬時に察知してラインを止めないと膨大な量の不良品を作ってしまう。それは死活レベルでメーカーの首を絞める。だから万全の体制を持って厳しい検査が行われている。その精度と細かさは役所の指定するチェック項目の比ではない。21世紀の現在、そんな低レベルのことができていなければとっくにメーカーはつぶれている。

 そもそも世界の国々では日本のようなバカバカしく厳しい車検制度がない。米国などは定期的な排ガス検査しか行わないので、完成検査をクリアしていなくてもリコールにはならない。役所のお墨付きなどなくてもメーカーの検査を当たり前に信頼して製品を買っているわけだ。

 法令を順守しなかったことは悪くないとは言わない。しかしケースとしては実害が発生しない単純に形式的な違反である。神戸製鋼のケースとは次元が違う。これほどまでに社会を揺るがす問題にする必要があるだろうか? 元はと言えば形骸化したルールが安全に貢献するかのように語っていることの方が問題で、完成検査も購入後の車検も無駄にクルマの維持コストを増大させている。被害者はユーザーである。安全は常に手間も含むコストとのバランスで考えるべきで、「命がかかっているから」という理由で、通勤電車に航空機並みの手荷物検査をできるかどうかを考えてみれば分かるだろう。厳重であることを必ずしも是とはできないのだ。ましてや実際の安全に寄与しない検査など、ユーザーに無駄に負担コストを掛けるだけである。

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