黒田日銀総裁の判断も予測! 「表情分析」があらゆる現場で普及するとき“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)

» 2017年11月22日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

 AI(人工知能)を使って日銀の黒田総裁の表情を分析し、金融政策の動向を探る試みが市場関係者の間で話題となっている。

 分析を試みたのは、野村證券金融経済研究所のエコノミストと米Microsoftの日本人社員。会社としてのプロジェクトではなく、個人的な共同研究として実施したものだが、早くも市場関係者の間では、実務に応用できないかとの期待が高まっている。

 両氏が行ったのは、黒田総裁の記者会見の動画データを0.5秒ごとにキャプチャーし、AIを使って表情を分析するというもの。具体的には、それぞれの画像について「喜び」「怒り」「悲しみ」「驚き」「恐怖」「軽蔑」「嫌悪」「中立」の8種類に分類し、会見ごとにどの感情の割合が高いのか統計的に分析した。

 結果は非常に興味深いものとなった。マイナス金利政策やイールドカーブコントロールなど、重要な政策変更を実施する直前の会見では「怒り」や「嫌悪」の割合が高くなっていた。一方、金融政策変更の決定を行った後の会見では「悲しみ」の割合が低下していた。

photo 日銀総裁の表情から、金融政策の動向を探る試みが話題に(写真は日本銀行本店)

 特にイールドカーブコントロールの導入を決める直前の金融政策決定会合となった2016年7月の会見では「怒り」の表情の割合が極めて高くなっている(全体の0.8%程度。通常は0.3%程度)。

 イールドカーブコントロールの導入は、量的緩和策における重要な転換点であった。日銀は13年4月、市場に大量のマネーを供給する量的緩和策の実施を決定。年間約80兆円のペースで国債などの資産購入を続けてきた。しかし、思ったほど物価は上がらず、16年7月の金融政策決定会合では量的緩和策について「総括的な検証を行う」と表明した。

 総括の結果として9月に公表されたのが、イールドカーブコントロールという新しい手法である。これは年間80兆円のペースでマネタリーベースを増加させるという従来の枠組みを維持しながらも、長期金利と短期金利の水準に政策の軸足を移すというものである。市場関係者の一部は、量的緩和策からの事実上の撤退と受け止めるなど賛否両論の激しい政策であった。

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