シャアVS.ダース・ベイダー 上司にするにはどちらがいい? 激動時代におけるリーダーの条件『最後のジェダイ』公開記念(3/4 ページ)

» 2017年12月22日 11時51分 公開
[ITmedia]

ジオンと帝国 2人の果て

 余談になりますが、この「ジーンの暴走」からは、ザビ家がトップを独占するというネポティズム(縁故主義)色の濃いジオンにおいて、軍隊は意外にも「結果を出せばオーケー」の成果主義、能力主義だったことがうかがえます。

 言われてみると、ジオン軍は個人の軍装もかなり自由でした。これが帝国であれば、ストームトルーパーの装甲が個人的に赤かったり、タイファイターを青く塗ったり、仲良し三人組が黒く塗ったりすることは許されなかったでしょう。シャアのようにスタンドプレーが目立つ人は、ベイダー卿にフォースチョークを食らっていたかもしれません(もっともその帝国も、セキュリティに関してはユルユルなのですが)。

photo ルウム戦役でのシャアの伝説的な活躍が描かれる『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』

 これは恐らく、若きコロニー国家、ジオンが「老朽化し、官僚主義に陥り、硬直してしまった地球連邦体制へのアンチ」という側面を持っていたためでしょう。

 一方帝国は、紛争解決能力を失った共和制に対して「トップダウンによる秩序の再建」という思想を持っていました。共和制ローマから帝政への移行という歴史を彷彿とさせられます。

 もっともトップダウンが行き過ぎていて、高級軍人ですら皇帝の名を聞くだけで震えだす超絶ブラックな状況でもありました。ベイダー卿も実はあれはあれで、怖い上司と怯える部下の間を調整する中間管理職的な配慮はあったのかもしれません。

 最終的にダース・ベイダーは、その仮面を脱ぎ、アナキン・スカイウォーカーとして英雄的な死を迎えます。

 一方、シャアは、「赤い彗星」としての仮面と、さらに「ジオン・ズム・ダイクンの遺児」という宿命まで背負い、地球連邦体制に対して反乱を起こす。

 その思想は、ただ敵を抹殺するのではなく、地球を寒冷化し、強制的に全人類を宇宙へと上げてしまうことで、「憎悪の連鎖を根本的に断つ」という、スケールの大きさを持っていました。ただ彼は、アムロとの個人的な決着をつけることにこだわり、その意図は不完全に終わります。

 反乱を起こした当時、彼は仮面を脱ぎ、素顔をさらしていました。しかし、もはや素顔と仮面の区別がつかなくなっていた。本人でさえ、分からなくなっていたことでしょう。恐らく彼はアムロと戦うことで、ただのひとりの男「キャスバル」である自分をようやく確認できたのだと思います。

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