2017年のアニメ業界を6つの“事件”で振り返る「けもフレ」「中国」「Netflix」……(2/2 ページ)

» 2017年12月28日 11時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]
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中国資本アニメの登場

 中国の企業が出資して、中国のコンテンツを日本でアニメ化し放送したのち、中国でも放送する――というパターンが16年ごろから見られるようになりました。「霊剣山」シリーズ、「銀の墓守」「剣王朝」「兄に付ける薬はない!」などのタイトルです。これらはTencent(テンセント)などの中国大手Web企業が運営するサービスから生まれた小説を原作にしています。

 日本のアニメが産業として成功した一因は、玩具メーカーや出版社と手を組み、面白いコンテンツを面白いアニメにし、そのアニメを売り上げにつなげる仕組みを作ったからです。一方で中国アニメ業界は長らく他業界と連携が取れていなかったのですが、Web企業が一気にその“穴”を埋めてきました。

 日本で制作するのは、「アニメといえば日本」というブランド力がまだあるから。「日本で作り、日本で放送されたアニメである」ということが、中国国内での人気につながります。また、中国で非常に有名な日本の声優を、日本で制作すれば起用できるという面もあります。総合的な「日本アニメ」というブランディングを背景に、中国出資のタイトルは増えていくでしょう。

黒船来航――Netflixの「独自コンテンツ強化」

 17年夏、ストリーミング配信大手のネットフリックスが「Netflixオリジナルアニメ」の配信を強化すると発表しました。日本のユーザーを獲得するというよりも、全世界に一定数いるアニメファンに向け、日本をアニメの調達地として強く意識し、展開していくという考え。18年には「デビルマン」「聖闘士星矢」「バキ」などのオリジナルタイトルを予定しています。

18年1月にNetflix独占で配信が始まる「DEVILMAN crybaby」

 ネットフリックスの出資は主に「独占配信権」という形で行われますが、その金額が一般的なものよりも高い。そのため、日本側の自己資金が少なくとも企画がスタートできるようになります。製作委員会でも、今まで10社で作っていたものが1〜2社でできるようになる。そうなると、日本アニメ市場のトレンドとは外れたトガった企画が通りやすくなったり、作品のコントロールがしやすくなったりします。

 また、日本アニメを海外に届けるための太いルートができるというプラス面もありますね。大作志向のアニメは海外を視野に入れているものも多いので、ダイレクトに海外展開できるのは作り手側から見て魅力的です。

 ただし、「ネットフリックス特需」みたいな話は聞きません。なぜかというと、納品や支払いタイミングが日本の“常識”と違うから。各話をギリギリまで作る日本アニメと異なり、ネットフリックスでは配信前に全話納品かつ支払いもそれと連動しています。小さい会社だと作っている間に資金がショートする可能性があるので、体力のある大手スタジオしか手を挙げられないのが現状です。まだまだ影響は一部にとどまっています。

アニメ業界の働き方改革

 ここ4年程制作分数はほぼ横ばいで、年間11〜12万分前後。放送延期するアニメも相次いでいるため、この分数がおそらくアニメ制作会社の限界。1本当たりの制作費用は微増していますが、現場の単価上昇や人員増にはダイレクトに反映されているとは言いづらいです。

 こうしたアニメ業界の労働状況の悪さはたびたび話題になっており、アニメーターや制作進行の過労死事件も発生しています。アニメ業界も働き方改革に乗り出すべきタイミングですが、今すぐに解決する問題ではなさそうです。業界に人が入ってくるようにするのは難しいので、根本的には制作本数を全体で減らし、ソフトランディングするしかないのかも……。

 対症療法として紹介したいのは、「制作進行の仕事の一部外部委託」。制作進行はアニメーターと制作会社をつなぐ役割を果たしていて、数十人ほどいるアニメーターに資料を届けたり、完成したカットを回収したりする業務があります。アニメーターは働き方が1人ずつ違うので「朝に来てほしい」「夜中に回収してほしい」と要望がばらばら。制作進行がマンパワーで対応するために、長時間労働が常態化していました。

 その業務の全部〜一部を外部の業者に委託することで、労働時間の削減につなげるという試みは一部で始まっています。ただし、制作進行の業務を通じてアニメーターと人間関係を築いていた一面もあり、全てを外部委託することで重要な経験や人脈作りにマイナスの影響があるのではという懸念もあるようです。

 「デジタル作画」も注目されました。これは単にツールが紙と鉛筆からデジタルになるというわけでなく、制作工程全体がPC内で完結し、効率化もはかれるだろうとの期待からです。とはいえ現状は、アニメの原画は「紙の方が作業しやすい」という意見も多いためにデジタルよりも紙が多数派。そのために回収作業やスキャン作業などが発生しています。

 絵コンテから完成まで全てデジタルになれば、ワークフロー内で「紙」と「デジタル」を行ったり来たりする必要がなくなりますし、次の工程の担当者に成果物を渡しやすい。その挑戦をしたのが17年公開の映画「ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜」。デジタルによる働き方改革はまだ閾値を超えるには至っていませんが、いつか大きな変化があるかもしれません。


 それでは、18年の注目ポイントはどこだろうか。藤津さんは「テレビをファーストウィンドウ(最初に世の中に出してビジネスをする場所)にしない作品」と語る。

 「テレビというメディアはたくさんの人に届きますが、放送するのにお金がかかる上に、視聴者は無料で視聴できてしまう。パッケージが売れなくなっているいま、最初に展開するメディアとしてテレビ以外を選ぶ会社が増えてくるのではないかと思います。映画館などでのイベント上映や、動画配信サービスでの先行上映などの試みが増えると予想しています」

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