日銀は正面から副作用議論を=早川元日銀理事インタビュー

» 2018年08月17日 13時08分 公開
[ロイター]
photo 8月16日、元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローは、日銀が7月末に決めた長期金利の上昇容認などの政策修正は小手先の対応に過ぎないとし、「総括検証第2弾」を行うべきと主張した。写真はロイターのインタビューに答える同元日銀理事。2014年5月に東京で撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 16日 ロイター] - 元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローは16日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀が7月末に決めた長期金利の上昇容認などの政策修正は小手先の対応にすぎないと批判。緩和長期化の副作用を正面から議論する「総括検証第2弾」の早期実施を求めた。

物価2%目標の達成前に日本経済は景気後退に陥るリスクが高いとし、内外金利差の縮小に伴う円高進行や、信用コスト上昇で地域金融機関の経営問題が表面化する可能性に懸念を示した。

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、長期金利の一定の上昇を容認する一方、当分の間、極めて低い長短金利水準を維持するとした新たなフォワードガイダンスを導入するなどの措置を決めた。

早川氏は今回の決定について、声明文が「金融緩和の強化とも、副作用に配慮した緩和是正とも読め、非常に分かりにくい」とし、「そもそも物価見通しを引き下げる一方で、長期金利の上昇容認という緩和後退ともとれる措置を同時にやることに無理がある」と語った。

背景には9人の政策委員会メンバーの間で、積極的な金融緩和を主張するリフレ派と、緩和長期化の副作用を懸念する委員との意見対立があるとし、「小手先の対応で逃げた感が否めない」と論評した。

副作用議論についても「市場機能に矮小(わいしょう)化」しており、本質的な議論が行われていないと批判。金融機関収益の圧迫を通じた金融仲介機能への影響や、緩和長期化見通しによる財政規律の弛緩などについて「総括検証第2弾を実施し、副作用問題を正面から議論すべき」と訴えた。

<景気後退で円高・地域金融機関の経営問題も>

日銀が新たに示した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、分析期間の最終年度となる2020年度でも物価2%実現が困難という見通しが示された。

早川氏は、景気拡大が戦後最長に迫る中で、先行きは設備投資が循環的に鈍化する可能性や消費増税などを踏まえれば、「景気は来年か再来年のどこかで転換点を迎える可能性が大きい。物価目標が実現する前に後退局面に入る」ことを懸念。

景気後退局面では、企業倒産の減少で低下している金融機関の信用コストの上昇が避けられず、赤字の多発など地域金融機関の経営問題が表面化するとともに、利上げを着実に進めている米国との金融緩和余地の違いから、円高が進行する可能性に言及した。

世界的な金融危機に発展した08年のリーマン・ショック時の日銀の政策金利は0.5%という低水準だったが、「今はそれよりも低い」とし、財政再建が先送りされる中で財政出動にも限界があると指摘。「次の景気後退への対応を政府も日銀も考えていない。19年以降は危うい」と警告した。

<長期金利、0.2%超でも容認の可能性>

黒田東彦総裁は決定会合後の会見で、長期金利の変動幅について、それまで事実上の上限となっていた0.1%の「倍程度を念頭に置いている」と発言した。

早川氏は、具体的な変動幅が声明文に示されていないことや、年間80兆円めどと明記されている国債買い入れ額が足元で50兆円を下回る水準に減少している事実を踏まえれば、「0.2%は金科玉条ではない。様子を見ながら0.3%や0.4%への上昇を容認することも考えられる」との見方を示した。

特に日銀が10月に公表する金融システムの現状と展望をまとめた新たな「金融システムリポート」が「重要なシグナルになる」と指摘。緩和長期化の金融仲介機能への影響に一段と踏み込んでくれば、「長期金利の上昇容認幅を拡大する可能性がある」と語った。

(伊藤純夫 木原麗花)

Copyright © Thomson Reuters