ベゾスの不倫問題に話を戻すと、今回の騒動は私たちにも決して対岸の火事では済まされない。まず、個人のプライベートな情報がスマホなどから抜かれるような事態が誰にでも起きかねないということを示唆しているからだ。
もちろん、人間なら誰しも隠し事の一つや二つあるかもしれないが、そういう情報が漏れたら、間違いなく大変な事態を引き起こしてしまうという人もいるだろう。会社にいられなくなるという人もいるかもしれない。ただ、どんな形でそうした情報(しかも文字や写真に残されている場合が多く、言い逃れはできない)が外に漏れるかは分からない。今回のようなケースなら、株価にだって影響を及ぼす可能性がある。
今回のベゾスのケースのように、個人的なやりとりが漏れる危険性は、彼が言うようにきちんと調査する必要がある。そんなことがまかり通っていいはずがないからだ。
もっと恐ろしいシナリオも考えられなくはない。もしかしたら米国企業の台頭を快く思っていない相手がサイバー攻撃でスマホなどから情報を盗み出して、タブロイド紙に流した可能性も否定できない。
また、ナショナル・エンクワイアラー紙が4カ月にわたりベゾスのプライベートな移動を把握して写真に収めていたことも、かなり気になるところだ。いかにしてそんな情報を得ていたのか。プライベートジェットで移動するベゾスを追いかけまわして、各地でツーショットの写真を撮っているのも離れ業だと言わざるを得ない。何か大きな勢力が動いているとベゾスが指摘したくなるのも理解できる。
しかも、股間のセルフィー写真を公開しないことを条件に、個人的な調査をやめるようタブロイド側が求めたと言うのが事実なら、さらに気味が悪い。そして、決して許されることではない。AMIにどんな後ろめたいことがあるのかは分からないが、そんな要求をするのは、脅迫以外の何物でもない。
ベゾスは冒頭で紹介したブログ記事でこう訴えかけている。「この類の脅迫に対して、私のような人間こそ立ち上がらなければならない」
これを受け、ナショナル・エンクワイアラー紙は「違法なことはしていない」との声明を発表。また米司法当局が事件について調査を始めたとも報じられている。ベゾスの不倫問題は、政治問題にすら発展する可能性が出てきている。しばらくこの騒動から目が離せない。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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