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» 2019年08月08日 07時00分 公開

世界を読み解くニュース・サロン:「表現の自由」を企業がどこまで守るか 8chan、愛知芸術祭に見るリスクと責任 (5/5)

[山田敏弘,ITmedia]
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混乱を引き起こすリスク、敏感になるべき

 企業としては、「表現の自由」を守ったがために、自社のイメージに影響が出るのはよろしくない。そのリスクを負う必要性は、一企業にはないのかもしれない。

 もっと言えば、米国が拠点のニュースサイト、バズフィードの記者が記事で言うように、「問題は8chanではない。若い米国人が問題なのだ」。この記者によれば、「8chan」がなくとも、他のサイトが立ち上がって同じような掲示板を提供するはずだという。また「8chan」を消滅させても過激思想は消えない、とも指摘する。

 とにかく、企業も自治体も、あからさまに混乱や暴力を「扇動」すると分かるコンテンツは控えたほうがいい。特に営利目的の企業ならそのリスクは早急に排除すべきで、公的な機関も一方向に偏った、バランスの取れていないイベントは中止にするのが賢明だろう。せめて、冷静に客観視できる人に仕切りを任せるなど、バランスを取るべきだ。

 「8chan」を運営するNTテクノロジー社の責任者は、米国人のジム・ワトキンスという人物だ。ワトキンス氏は、フィリピンに暮らしながらこのサイトを運営している。「8chan」のトップページには、「裁判所による非公開の令状に応じたことはないし、発言禁止令を受けていません」と書かれており、どんな表現でも自由に書き込むことができるという触れ込みだ。

 だが実は、「自由の国アメリカ」でも、こうしたサイトを政府や自治体が規制しても「表現の自由」に反する行為または検閲などにはならない。米国には「米憲法修正第1条」という憲法がある。言論や宗教の自由を保障している条項で、米国憲法でも極めて重要な条項の一つである。

 その憲法修正第1条では言論や表現の自由が保障されているが、例外がある。扇動や誹謗(ひぼう)、詐欺、わいせつな言葉、児童ポルノ、けんかの売り言葉、脅しなどだ。つまり、無条件で「表現の自由」が守られているわけではない。その他、国民の生命財産に関わる重要な機密情報なども「表現の自由」では守られない。米有力紙ニューヨークタイムズですら、機密に関わる重大な情報には、政府にお伺いをたてているくらいだ。とにかく、世間を混乱させるような表現はある程度は規制されるべきで、「8chan」はその際たる例だろう。

 表現の自由というのは「何でもあり」ではないということだ。マスに向けた発言や展示にはそれなりの責任を持つ必要がある。「表現の自由」や「アート」を盾に、社会に混乱を巻き起こすようなことがあってはならない。企業や自治体もその感覚を養っておくことが、リスク管理のためには必要だろう。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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