「表現の自由」を企業がどこまで守るか 8chan、愛知芸術祭に見るリスクと責任世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2019年08月08日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

表現の自由を巡って、圧力の「板挟み」

 今回、3度目にしてやっとクラウドフレアは「8chan」を規制することになった。これまでは、クラウドフレアも、「表現の自由」などを理由に対策を取ってこなかったとされる。というのも、「8chan」が開設当時から「表現の自由」を標榜してきたからだ。

 とはいえ、いくつかの殺人事件につながっている事実が指摘されていることから、世の中にヘイトや人種的な憎悪をあおるメッセージを公開できる「8chan」のようなサイトが「表現の自由」をうたうのは、無条件で受け入れられるべきではないと批判も噴出した。責任ある企業として「8chan」へのサービスを停止しろ、というのだ。クラウドフレアもそうした“圧”を感じずにはいられなかったのだろう。

 ただその一方で、「表現の自由」を熱心に主張する人たちからも、圧力を受けることになる。

 クラウドフレアは、サイトにセキュリティ機能を提供する、競合の少ない企業であり、それゆえに、サイトなどに対して優位的地位にある。同社がサービスを停止することでサイトを運営停止に追い込めるとなると、その権力は絶大である。特に、気に入らない「表現」はストップさせることも可能になるため、同社はIT系団体やリベラル系団体などからもけん制されていた。

 それだけではない。クライアントのサイトに掲載される内容によって、同社がサービスを停止させて、サイトを使えなくしてしまうことは、他のクライアントに不安感を与えることにもなる。どちらに転んでも、批判は避けられない状態で、同社は対応に苦慮していた。

 これはちょうど、「あいちトリエンナーレ」の実行委員会の立場に近いのではないか。市長や、暴力もちらつかせる反対勢力などから中止しろとプレッシャーをかけられ、一方で、イベントへの出展者やメディア関連組織、一部のジャーナリストや表現者などからは「表現の自由」を守れとやじられる。その間で、コンテンツに責任を持つ芸術監督も、バランス感覚を失って右往左往する。実際には、実行委員会の役人の中にも、多少違和感を持ちながら作業をしていた人もいたのではないだろうか。

 クラウドフレアはメディアの取材に対し、「8chanのヘイトあふれるコミュニティーは法律を違反していないかもしれないが、その法律の趣旨を違反しているのに等しい環境を提供している」と、サービス停止の理由を述べている。その上で、政治家らに、政府がこうした発言の場所(サイトなど)をどう扱うべきか明確にするよう求めたいと発言している。批判を避けるために、政府や自治体に「何が許されるのかをきっちりと示してほしい」と要求したのだ。さもないと、「8chan」に絡む各方面からの批判が、クラウドフレア側に向けられてしまうからだ。

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