「ビール“を”楽しむ」から「ビール“で”楽しむ」へ アサヒ、スーパードライのデジタル施策を大転換コト消費を打ち出す

» 2020年01月08日 18時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 アサヒビールは2020年、看板ブランド「アサヒ スーパードライ」のマーケティング戦略を強化する。ビール類市場は15年連続で縮小し、その中でも低価格の新ジャンル(第3のビール)が存在感を強める中、若年層をターゲットにしたデジタル施策などを展開し、ビールによる「コト消費」を打ち出す。10月に予定されている酒税改正でビールが減税になることを追い風に、ビール市場の活性化を狙う。

春限定パッケージでは初めて女性を中心としたCMを制作。瓶から直接飲む「ザ・クール」も引き続き若者向けに訴求する

 1月8日に発表した19年実績によると、「スーパードライ」の販売数量は前年比3.6%減の8355万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と苦戦。20年は1.4%増となる8470万ケースの目標を掲げ、ビールに特化した取り組みを進める。

 20年の事業方針説明会で、塩澤賢一社長は「お客さまにとって特別な『体験価値』を創出できれば、ビールに価値を見いだしてもらえる」と話した。“商品中心”だったこれまでのマーケティング施策を見直し、消費者の飲用シーンを想定した取り組みを強化する。

 「『スーパードライ“を”楽しむ』から、『スーパードライ“で”楽しむ』に変える。たった1文字の違いだが、大きな転換になる」と、マーケティング本部長の松山一雄専務は強調する。延べ6000人の消費者調査を経て、ビールが果たす「人と人をつなぐ」「人生の喜怒哀楽に寄り添う」などといった役割を再確認。「ビールがうまい。この瞬間がたまらない。」という新ブランドメッセージを設定した。

 具体的な取り組みの一つが、若年層のビール需要を拡大するための消費者参加型デジタル施策だ。ビールによる「人との出会い」や「仲間とつながる」といった瞬間を集めたWeb限定動画を19年12月末から配信。同時に、Twitterで「#令和の乾杯」「#今しか会えない◯◯」といった言葉を付けた写真投稿を募集している(1月14日まで)。投稿された写真を使って、新たなWeb動画を制作し、2月上旬から配信する。

Web限定で配信した動画の一部

 消費者参加型のWeb動画は配信後にリツイート数やSNSでの反応などの効果を検証し、次のデジタル施策に活用する。春以降も、季節やイベントに応じた若年層向けのWeb動画を継続して制作していくという。

 味や飲み方といった従来の価値ではなく、ビールの情緒的な価値をあえて前面に打ち出すことで、若年層への訴求につなげたい考えだ。

 その他、VRによる工場見学や出来たてのスーパードライの提供などを行う「工場コンセプトショップ」を4月以降に東京、名古屋、大阪で展開。また、家庭で「エクストラコールド」を体験できるタンブラーのプレゼント企画や、イベント会場でエクストラコールドを提供できる急冷機の設置なども行う。

家庭で「エクストラコールド」を体験できるタンブラーのプレゼント企画もある

 20年は東京五輪・パラリンピックといった大きなイベントも控えており、ビール需要拡大の好機に恵まれた1年といえる。それを生かして新たな層をファンとして取り込めるか。21年以降の動向にもつながっていきそうだ。

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