ここ数年はベンチャーブームだったからなのか、やたらと時価総額を持ち出して企業について語る記事を多く見かける。だが、時価総額とは株価を基に算出する1つの評価軸でしかなく、その数字がすなわち企業の実態や価値を正確に表しているわけではない。前述のトヨタとテスラの例に限らず、最近では電通とサイバーエージェントの話も記憶に新しい。
5月20日、サイバーエージェントの時価総額が終値ベースで電通グループを逆転した。これを受けて、「ついに広告の世界でもネットがリアルを超越した」という論調を目にした。おそらく、その2カ月前に電通が発表した「2019年 日本の広告費」において、インターネット広告費がテレビメディア広告費を超え、初めて2兆円超となったことが報道された影響もあったのだろう。
しかし、時価総額だけを見ずに、その他のデータも冷静に見てもらいたい。両社のセグメント別の売上高を見れば、共に広告事業からあがる売上高が最も多いことには変わりないが、電通が9割以上の売上高を広告事業からあげているのに対して、サイバーエージェントにおける広告事業は売上高全体の5割強であり、ゲーム事業やメディア事業など他のセグメントが占める割合も半分近くある。
確かに趨勢(すうせい)としてテレビ広告の市場規模が減少を続けていく一方で、ネット広告が成長をし続けている事実はある。だがその事実と、サイバーエージェントが時価総額で電通を逆転したこととをひもづけて語るのは、少し無理があることが分かるだろう。
時価総額があたかも企業の価値を表す唯一の指標のように語られるようになったのはいつからなのか。これは国内に限った話ではない。例えば、シェアオフィス業界の大手で「WeWork」を展開する米ウィーカンパニーの企業価値について考えてみよう。昨年の1月時点では大株主であるソフトバンクグループは同社の企業価値を470億ドル(約5兆円)と見積もっていた。だが、同年10月にはその見積額が80億ドル(約8560億円)となり、80%以上も下落したのだ。
この間、WeWorkが顧客に提供する価値にそこまでの劣化があったとは考えられず、ウィーカンパニーの業績が8割近く減収または減益となった訳でもない。しかし、評価額自体は短期間で急落してしまった。つまり、時価総額というものは「水物」だといえる部分があるのだ。上場している企業ならば、多数の市場参加者が取引をして市場原理がはたらくため、割高になれば売られ、割安であれば買われる機会が増え、結果として適正と思われる株価に落ち着きやすくなる。だが、上場していない未公開企業の場合、話は変わってくる。
未公開企業は資金調達の際、投資家に対して財務諸表や資本政策表などを提出するものの、ベンチャー企業の場合、多くは赤字であることが多く、業績だけではなく将来性に対して株価が決定されることが多い。これは、言ってみれば「鉛筆なめなめ」の世界で、ピッチ資料がキレイでプレゼンがうまければ、多額の資金調達ができてしまうこともある。つまり、未公開企業においては「いい加減な値付け」がされることで、実態と乖離した巨額の時価総額となることが往々にしてあるのだ。言うまでもなく、ウィーカンパニーも未公開企業である。
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