7月1日、米国の電気自動車メーカーであるテスラの時価総額がトヨタ自動車を抜き、自動車業界トップに躍り出た。その後もテスラの躍進は止まらず、同月7日には同社の時価総額が一時2650億ドル(約28兆5000億円)まで膨れ上がり、同日の終値で換算すると、トヨタ自動車と本田技研工業の時価総額の合計(27兆1036億円)を超えてしまったのだ。
日本が世界に誇る「あのトヨタ」が新興企業に打ち負かされてしまった。このようなニュアンスの記事を何度も目にしたが、筆者はその表面的な数字だけで物事を語ってしまう傾向に強い違和感を覚えている。
時価総額は通常、「発行済み株式総数」と「株価」をかけて算出する。発行済み株式総数が頻繁に増減することはないので、テスラが一気に時価総額を上昇させたということは、つまり同社の株価が急上昇したことを意味する。
しかし、株価は投資家の期待値が反映されるものであり、必ずしもその企業の実態を反映するものではない。テスラの時価総額がトヨタやホンダを抜いたからといって、同社が自動車業界で世界一になったと考えるのは早計だろう。
2019年の世界販売台数を見てみると、テスラが36万7500台なのに対して、トヨタは1074万台(ダイハツ工業と日野自動車を含む)であり、テスラはトヨタの約30分の1だ。業績面でも、1年間で2兆円を超える当期純利益(直近4四半期が6829億円、5920億円、7380億円、631億円で推移)を計上しているトヨタに対して、テスラはようやく3四半期連続で黒字決算を達成したというレベルだ。
仮に直近の4四半期の当期純利益(-437億円、153億円、112億円、17億円)を合計しても、1億4400万ドル(約154億円)の赤字である。
とはいえ、電気自動車という今後伸びていく可能性が高い業界において、頭角を現したテスラに投資家の期待が集まり、その結果として株価が上昇していることは理解できる。また、テスラの本拠地である米国における車種別の自動車販売台数を見ても、既にセダンタイプのModel 3は直近4四半期で15万台近くを販売していて、メルセデスやBMWといった競合のセダンタイプの合計販売台数をテスラ1社で超えていることが確認できる。
将来への期待感だけではなく、しっかりと実績もあげているのだ。その実績を持ちながらも、クロスオーバータイプのModel Yに目を向ければ、直近4四半期での販売台数が1万台にも満たないのに対し、競合他社の合計は30万台に迫っており、まだまだ成長の余地も残している。
テスラが着実に実績を積み上げていることに間違いはないが、あくまで、投資家はテスラの将来性に期待をしているから株価が上昇し続けているだけであって、それをもって現時点での企業評価とはすべきではない。
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