新型コロナウイルス接触確認アプリは本当に感染者を減らすことができるのか(3/3 ページ)

» 2020年08月04日 08時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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本質は「移動距離」や「県境をまたぐ」ことではない

 また、COCOAで感染者との濃厚接触が通知されると、具体的な新型コロナウイルスの症状がなくとも、優先的にPCR検査を受けられる。通常ならば、ドクターや保健所の判断次第で、症状がなければ検査することは難しい。しかし、COCOAで陽性者との濃厚接触の可能性があると報告することで、優先的に検査を受けることができる。

 このようにCOCOA導入は単純に感染リンクを追えるという以上の利点があるといえる、もう1つ重要なポイントがある。それは地域をまたいだ感染確認が容易になることだ。

 そもそも、ウイルス感染はなんらかの接触によって起こるもので、移動制限は感染経路の追跡を容易にすることが目的だ。コードフォージャパンが開発を始めた独自仕様の接触確認アプリでは、ユーザーが「濃厚接触者の人数」を自分で確認可能にする予定だったという。最終的にはAppleとGoogleが実装した仕組みを導入することとなり、このアイデアは(現時点では)実装できていない。

 しかし、行動の違いによって、どれだけ濃厚接触者の人数が変化するかを確認できれば、自分自身で行動パターンを変えるといった判断が行いやすい。政府は既にAppleとGoogleに“濃厚接触者人数の可視化”というアイデアを伝えており、将来的には実装される可能性も残っている。行動を変えて接触を最小限に抑えられるならば、また感染した際にも二次感染を極力減らすことで行動制限は緩和できるだろう。

 「大切なことは濃厚接触者の数を減らすこと。遠くに旅行してはだめとか、県境をまたいだ移動は控えるべきという議論は本質ではない。(漠然とした自粛ではなく)自分自身で行動と結果、どう他人と接触しているかを知ることが重要だ」(平副大臣)

オプトインの壁を突き破るには

 COCOAの普及が進むほどに、その利点も大きくなることは自明だが、政府広報が目標を達成することは難しいだろう。漠然とプライバシーに不安を持つ、あるいは接触していたとしても「発症していないなら(知人に感染させた可能性を含め)、その事実を知りたくない」といった考えを持つ人が一定の割合、存在する。

 それでもインストール数を増やすには、国民全体が「COCOAをインストールすることが正義であり自らと家族を守るために必要」だという認知を共有することに他ならない。そのためのきっかけとして、今回、取材したようなアイデアが実現していくことを望みたい。

 しかし、それでも最後に残るのは、“陽性者であることを登録する”という、2番目のオプトインのハードルを超えることだ。陽性の結果を受け、アプリへの陽性者登録を誰かに促されたとしても、最終的にどうするかは本人次第だ。

 さらに、インストールしてもらうための工夫事例は数多く集めることが可能だが、陽性者登録を促すためのノウハウは、そもそもの事例が少ないため改善の方向性を見定めにくい。

 平副大臣は「インストール数を増やしていくことはできても、陽性者登録で“目詰まり”が起きるだろうことは政府としても想定している。しかし登録は義務化はできない。またアプリのリリース時にも「インストールも、陽性者登録も任意とする」という約束をしている。省庁を横断して、なんらかの形で登録を促すアイデアを集めているが、現時点では具体的な取り組みはない」と課題について認めた。

 しかし、COCOAの利点は必ずしも感染経路の追跡だけではない。まだ実装はされていないが、毎日の行動がどのように濃厚接触者数へと影響しているのかを可視化されるようになれば、自然と行動は変化し、それが新たな常識を生み出していくはずだ。

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