こんなに頑張っているのに、なぜ日本だけGDPが回復しないのかスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2021年04月06日 09時29分 公開
[窪田順生ITmedia]

名ばかり管理職

 ブラック企業の特徴の一つに「精神論の押し付け」がある。「夢は必ずかなう」「会社は家族」「感謝を忘れない」などのパワーワードを連呼して、個人が死ぬ気で頑張れば、どんなむちゃな目標も実現できるという洗脳を施して、過重労働や長時間労働を「自分の意思で行う」ように仕向ける。

 また「名ばかり管理職」のように、責任感があるような肩書きを与えることで、「そんなことじゃ信頼されるリーダーになれないぞ」と尻を叩いて、精神論の押し付けを「下」の人間にまで波及させる。

 実はこれも日本社会あるあるで、苦しくなればなるほどこのように「精神論の押し付け」によって、面倒な問題を個人に丸投げする動きが活性化するのだ。その最たるものが、東京都が新たな感染対策として打ち出した「コロナ対策リーダー」だ。

 これは、都内の飲食店の店長や店員の中からeラーニングで感染対策のポイントを学び、率先して感染防止策に取り組む「コロナ対策リーダー」を登録してもらうというものだ。

コロナ対策リーダー、事業の流れ(出典:東京都)

 「飲食店の感染を抑えるためにも必要な取り組みじゃないか」と感じる方も多いかもしれないが、「リーダー」になったところで何かの権限を与えられるわけではない。マスク会食しない客に対して「私、コロナ対策リーダーなんで」とステッカーを見せびらかしても「だからなに?」とあしらわれるのが関の山だ。

 では、どんな効果があるのかというと、居酒屋側に責任感を押し付けて、自分から進んで客に「マスクをしてください」と注意するように仕向けることだ。実際、夕方のニュースを見ていたら、コロナ対策リーダーに登録したという居酒屋店主が「やる気が出てきました、命を預かっているという自覚がでた」と述べていた。

 ここまで言えばもうお分かりだろう、「コロナ対策リーダー」とはブラック企業でいうところの「名ばかり管理職」と同じなのだ。

 肩書きと責任を与えるだけで権限や見返りは一切与えない。そんな丸腰の個人を戦いの最前線に立たせて、難局を乗り切ろうという戦い方を日本の為政者はよく好む。「頑張れ」「今こそ一つに」と音頭を取ってさえいれば、根本的な対策やシステムの改革などに手をつけなくていい。つまり、個人に問題を丸投げすることで「現状維持」ができるのだ。

 実際、居酒屋の間からはこの制度について、「正直、仕組みに違和感がある。店舗ごとの取り組みでいいのではないか。国の対策としてしっかりやってくれたほうがいい。こういったもの一つ一つの負担が現場には重い」(TOKYO MX 3月22日)という疑問の声も少なくない。

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