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「ツイートを理由に退職処分」は適切だった? ホビージャパン問題から考える、社員の不適切SNS問題働き方の「今」を知る(4/4 ページ)

» 2021年08月18日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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 答えは「当該企業が、どのような懲戒規定を設けているか次第」となる。極端な話、「上司への悪口や会社へのダメ出し投稿は懲戒処分にする」と規定し、その通りに運用すれば懲戒になるし、規定を設けなかったり、規定にあったとしても会社が積極的に処分しなかったりすれば懲戒にならない、ということだ。

 一般的に、単なるグチや、個人や会社が具体的に特定できない程度のものであれば、懲戒に至らないことが多い。一方で顧客の個人情報を漏えいさせたり、第三者の名誉を毀損(きそん)する内容であったり、会社の信用が低下して金銭的な損害を被ることになる場合は、当該社員は損害賠償責任や、場合によっては刑事責任を負うことになる。当然ながら懲戒処分対象にもなるだろう。

 投稿によって名誉毀損や情報漏えいなど実害が発生している場合は、当然ながら、投稿者の身元が調査・特定されることになる。匿名アカウントであっても懲戒処分は避けられないだろう。従って、ダメ出しが事実だとしても、それによって会社が被害を受ける場合は、名誉毀損が成立する可能性もある。もし、不正を明らかにしたいのであれば、SNSへグチるのではなく、公益通報すべきであろう。

「社会通念上相当」をどう考えるか

 ドラマやマンガなどでは「懲戒解雇だ!」といったせりふを目にすることも多い。しかし実際の懲戒解雇は、会社に重大な損害を与えるレベルの刑事罰に相当する罪を犯し、当該社員が事実を認めた場合にようやく適用されるような「抜かずの宝刀」的な存在であり、あくまで例外的な手段という位置付けだ。なぜなら、先述の労働契約法15条に定められた「懲戒権らん用法理」というものがあり、懲戒解雇が有効かどうかに関しては普通解雇よりも厳しい判断がなされるためである。

 懲戒解雇の適用基準は厳しく判断されるが、それ以外の訓戒、譴責、減給、出勤停止、停職、降格などにはある程度会社の裁量権が認められている。懲戒対象となるような問題行動を繰り返す社員であれば、段階的に懲戒のレベルを上げていけばよい。そして問題行動が発覚したら、直ちに「警告書」や「注意書」といった形で文書で注意指導し、上司側では「指導記録書」を作成しておくのだ。

 これによって具体的にどのような問題行為があったか、周囲にどのような悪影響を与え、どんな指導をしたかといった記録を重ねておくとともに、期日を定めて本人からも「始末書」を提出させ、反省と改善の意を表明させるとよい(当然ながらそれらの記録は人事評価にも用いられ、「昇給/昇格の据え置き」や、場合によっては「降格/減給」といった形として反映することになる)。その上でまだ改善が見られないようであれば、処分を段階的に次の「減給」、そして「停職」などへと重くしていくのだ。

 また、そもそも懲戒処分にこだわる必要もない。本当に社外にも迷惑を掛け、会社に損害を与えるような問題行動があったのであれば、当該社員に対して法的措置をとればよいのだ。民事上の不法行為に基づく損害賠償請求や、名誉毀損罪などで刑事告訴を検討することも検討すべきである。

 組織が人事権を行使するに当たっては、公正さと慎重さが不可欠である。特に懲戒処分を下すとなると、従業員の生活にも多大な影響を及ぼす可能性があるため、一方的に行ってしまうとかえって「不当労働行為」だとして、従業員側から損害賠償を請求されるリスクもあるのだ。企業側は、問題となっている事象の重大性や頻度などを考慮した上で、下すべき処分を慎重に選択しなければならない。そのためにも就業規則はきっちり整えておき、従業員には説明を尽くし、不要なトラブルを生まないように心掛けておきたい。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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