攻める総務

ESGのGとは 重要視されるコーポレートガバナンス

» 2021年09月13日 07時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「ESGのGとは−重要視されるコーポレートガバナンス」(2021年9月7日掲載、著者:金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内俊樹)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


1―重要視されるG(ガバナンス)

 ESGを構成するの3つの側面のうち、G(ガバナンス)を最も重視する機関投資家が多いことは各種調査で明らかになっているが、同様の傾向は企業サイドにも見られる。GPIFが公表する「第6回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」によれば、ESG活動における主要テーマとして「コーポレートガバナンス」を挙げる企業が最も多く、調査対象企業の71.7%がその重要性を指摘している[図表]。

 ではなぜ、ガバナンスが重視されるのだろうか。その理由としてガバナンスならではの2つの特性が挙げられる。1つ目はコーポレートガバナンスが企業経営にかかわる課題であり、あらゆる企業に例外なく認識される課題であること、2つ目は環境や社会の諸課題に対処する上での大前提として健全なガバナンスが位置付けられることである。

 環境や社会にかかわる課題に比べ、ガバナンスは世間における話題性に欠ける面は基礎研レター否めないが、ガバナンスへの取り組み次第で、今後のESG課題の行方が左右されかねないという意味で、ガバナンスは重要性の高い側面といえる。

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2―コーポレートガバナンスとは

 ガバナンスの中核的なテーマとなっているのが、コーポレートガバナンスである。さまざまな意味を持つ概念だが、「企業経営の健全性と効率性の確保を通じて株主に還元する利益を最大化するための仕組みや体制」と考えることができる。

 従来は、不正会計、データ改ざんなどが相次いだことを受け、不祥事の防止などにコーポレートガバナンスの主眼が置かれることが多かった。しかし、日本企業の収益性が欧米に比べ低い状況が続く中、最近では持続的な成長や中長期的な企業価値の向上のための方策としてコーポレートガバナンスが強く意識されるようになっている。中長期的な企業価値向上という観点で、ESGへの取り組みが求められるようになっていることは、ここ数年の特徴的な傾向といえる。

 コーポレートガバナンスの課題は多岐にわたるが、企業経営の健全性や効率性を高める上で重要な役割を担う取締役会への注目度は高い。中でも機関投資家やESG評価機関の関心の高いテーマとして「取締役会の独立性」と「役員報酬の有効性」が挙げられる。

 前者は経営全般に対するけん制機能を担う取締役会の独立性を問うもので、方策の一つとして社外取締役の導入・増員が注目されている。後者は役員に対するインセンティブとしての適切性を問うもので、支給額決定プロセスの透明性の確保や企業の持続的発展に向けた動機付けとなるような報酬体系の導入への関心は高い。

 コーポレートガバナンスで重要なのは形式ではなく実効性である。このため、実効性にかかわる情報を、その背景となる考え方を含めて開示し、株主をはじめとするステークホルダーの理解を得られるように努力することも重要である。こうした観点から、情報開示もコーポレートガバナンスの重要課題の一つとして認識されている。

3―強化が求められるESG対応

 気候変動や格差拡大などの問題が深刻化し、株主のみの利益を最大化する考え方では社会的な理解が得られ難くなるなか、「企業は、環境や従業員、顧客、取引先、地域社会など、株主以外のステークホルダーにも経済的な利益をもたらす責任がある」とするステークホルダー資本主義といった考え方に焦点が当てられはじめている。

 あらゆるステークホルダーに配慮する経営が世界的に広まることになれば、必然的に、ESG課題への取り組み強化が要請されるようになる。その場合には、ESGを経営戦略の中で明確に位置付け、ESG関連のモニタリングや意思決定に取締役会が積極的に関与し、ESG目標の達成度に応じた役員報酬を導入するなど、より踏み込んだガバナンスが求められるようになる。

 ESGに対する世の中の意識が強まるなか、コーポレートガバナンスにおけるESG課題の重要性は今後一層高まる可能性がある。

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