変革の財務経理

「月末が憂鬱だった」 定型業務を“8割削減”、メドレー経理の変革とは(2/2 ページ)

» 2023年10月20日 10時30分 公開
[渡辺まりかITmedia]
前のページへ 1|2       

部門内で企画しシステム開発

 同社の財務経理部門では、工数削減により生まれた時間を用いて、まず消込業務の自動化を図った。入金消込の突き合わせ作業はほとんどなくなったが、会計システム上での消込操作による起票を1つの取引ごとに選択しながら行う作業が残っており「数千件を超える取引を1つ1つ会計システム上で消込操作をするのに、かなりのタイムロスがあった」(八木氏)。

 そこで、部門内でシステムを開発。クリック一発で、自動的に会計システムと連携し、突き合わせから起票まで行えるようにしたのだ。沖山氏は「入金件数が増えた今、この仕組みができておらず、ずっと手作業だったら……と思うとぞっとしますね」と話す。

 初期費用売上を按分して管理するという負担については、以前から導入していたSalesforceの機能で対応した。そのおかげでシステム導入や改修のコストを最小限にしながら売上を自動的に按分計上できるようになったのだ。

 沖山氏は「収益認識に関する新たな会計基準の適用により、他社の経理部門でも対応に追われたはず。そのために、新しいシステムを導入するなど、コストをかけたと思われるが、当社では既存のツールにある機能を活用しただけなので、特にコストをかけず、内部だけで対応することができた」とそのメリットを説明する。

 そして、空いた時間でさらなる効率化を目指すことができた。23年には、ボタン一つで請求書と送付用の文面を作成して自動的に送信するというシステムと、監査法人へ提出する資料の自動抽出システムを開発し、運用しているのだ。

 監査法人に対し、事業会社は大量の資料を提出しなければならない。信頼性の高い情報を投資家に開示するために必要な業務であるとはいえ、簡単なものではない。

 「請求書や契約書などの資料を、営業システムの中から探し、ダウンロードし、それらをまとめて送付するというのを手作業で行うのに、かなりの工数が必要になっていました。PDFとしてまとめるまでに4〜5時間もかかっていたんです。

 それが、ボタンを押すだけで、自動的に営業管理システムから必要な資料を探し出しまとめるところまでシステム化されました。効率化によってできた時間で、さらなる効率化を考え、企画し、開発する。定型業務にかかる時間を削減している良い例ではないかな、と思います」(八木氏)

事業を止めるな

photo 執行役員 Accounting&Tax室長の沖山大樹氏(右)とグループマネジャーの八木俊憲氏(左)

 事業部それぞれに経理に詳しい担当者を1〜2人配置し、事業部と経理部の橋渡しをする、いわゆる営業経理専任のようなポジションは、メドレーには存在しない。なぜなら「事業部ファースト」という考え方が同社にはあるからだ。「売り上げをいかに伸ばすかにフォーカスするのが事業部の役割であり、それが顧客への価値提供につながる」と沖山氏は話す。

 八木氏も「営業のシステムに、会計的な要素をあまりに盛り込むと、事業部のスピード感に影響を与えてしまう」と言う。

 「私たちが工数を削減し、作業時間を減らしてスピードを上げれば、もっと彼らの“営業経理”的な部分を巻き取れる。事業部も事業のスピード感を落とさず、売上を伸ばすことにフォーカスできる」(八木氏)

 それができている理由の一つに、経理部門の人たちが経理業務だけにこだわっているわけではないというものがある。「いろいろな経験を積みたくて入社する人が多い」と八木氏。「定常業務をどうすればもっと削減できるかを、空いた時間を使って考えて、それを実行しているんです」

 既存事業の拡大、新規事業の開発、M&Aによる子会社の増大など、業務は増え続ける一方だが、もう、以前のように月末月初の出社日に気が重くなることはないと沖山氏は言う。

 「子会社も含めたフロー構築、ルール設計を長期的な視点で行い、今後、ますます巨大な企業になっても対応できるよう備えていきたいですね。

 事業のスピードを落とさずに、かつ経理のスピードを早めるにはどうしていくべきかという視点を持って、これからも常に改善していきたいです」(沖山氏)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.