3番目の副業・兼業の奨励に関しては違和感がある。
指針では「成長分野への円滑な労働移動を図るための端緒としても、副業・兼業を奨励する」とし、副業することがあたかも転職につながるかのような書きぶりだ。
そもそも政府と企業が副業を推進したのは、優秀な技能を持つ人材が他社で副業することでイノベーションや新事業の創出など経済活性化に寄与すること、個人にとっても自社では得られないスキルを獲得し、キャリア自律など個人と企業の成長につながると期待されているからであった。
リクルートキャリアの「兼業・副業に対する企業の意識調査」(2019年9月2〜5日、3514社)によると、企業が副業を推進・容認している理由として「人材育成・本人のスキル向上につながるため」と回答した割合が30.4%、「社員の離職防止(定着率の向上、継続雇用)につながるため」が27.6%だった。
経済同友会の調査(19年11月6日〜12月8日調査)でも「人材育成・スキル向上につながるため」がトップの57.4%、続いて「優秀な人材の流出防止」が54.1%だった。
人材育成や人材流出防止が大きな目的であり、おそらく社員に転職を促すために副業・兼業を推奨している企業は皆無ではないだろうか。もし「転職を推進するための副業推進」策であれば、企業も社員も参加しないのではないかという疑念も残る。
三位一体の労働市場改革の最終目的は転職を通じて賃金を上げることにあるが、当連載第1回目の記事で述べたように転職すれば必ず賃金が上がるわけではなく、リスクも伴う。
また、指針には日本の終身雇用が賃金引上げを阻む温床のように書かれているが、欧米企業にも「内部昇進制」を重視した長期雇用の企業も少なくない。
世界に拠点を持つ外資系人材紹介業のロバート・ウォルターズ・グループのトビー・ファウルストンCEOは日本企業に長期勤続者が多いことについて以下のように話す。
「もちろんプラス面もある。長く勤めることで会社と社員の間のロイヤリティが高まり、貢献したいという気持ちも高まるし、専門的知識を積める。一方、同じ会社で同じ仕事を長期に続けていると、社員はシャープさを失い、もしかしたら生産性が鈍化していく可能性もある。私自身は今の会社に若くして入社して23年になるが、その間全く違う9回にわたる担当分野変更を経験し、海外転勤によって他の国の言語や文化を学ぶ機会をもらったことで今の私がある。
日本企業も終身雇用を最大限活用し、同じ会社でさまざまな経験を積ませるように企業が努力する必要がある。それが生産性を上げていく大きなカギを握っていると思う」
トビー・ファウルストンCEOは、転職社会の欧米のように「社員の勤続年数が短いことがよいというつもりは全くない」と言い切る。これもグローバルリーダーの見識だろう。
労働市場改革においては日本企業の人事制度や文化を踏まえつつ、もっと世界の動きを俯瞰(ふかん)した政策を地道に積み上げていくことが求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング