「ゼルダ」実写化に見る、任天堂IP戦略の“理想像”とはエンタメ×ビジネスを科学する(2/3 ページ)

» 2023年11月16日 09時23分 公開
[滑健作ITmedia]

テレビ離れが進んだからこそ

 昨今の任天堂は、ゲーム以外の事業に自社IPを積極的に展開している。日米のユニバーサルスタジオで「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を開業し、4月には映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を公開した。

 これらの取り組みは任天堂の自社IPに触れる人口を拡大させ、中核ビジネスである「ゲーム専用機ビジネス」の活性化が狙いだ。そしてこの戦略の裏には、IPに触れる人口の拡大が日に日に困難になっている市場環境がある。

 現代の娯楽市場は、インターネットやスマートフォンの普及によりプレイヤーが急速に増え、競争が激化している。娯楽市場とはとどのつまり個々人の「視界」の争奪戦であり、いかにして消費者の目に映るか、目に映りやすいポジションを取れるかが勝敗を分ける。かつては、生活必需品になっていた「テレビ」が、どの国・地域・世代においても最も視界に映る端末であり、放送されるコンテンツ以外は同条件の戦いを行っていた。

かつてはテレビさえ押さえていればよかった(写真はイメージ)

 しかし、スマートフォンの登場によりこの構図が崩れた。特に動画やスマホゲーム関連のコンテンツはスマホで簡単に触れられるため、娯楽市場におけるプレゼンスは急上昇した。

 では任天堂IPはどうか。任天堂のIPもスマートフォン向けのゲームに進出してはいるが、本業はあくまでゲーム専用機であり、IPもゲーム専用機に重きをおいている。そのため、消費者の視界に入るためにはゲーム機やゲームソフトなど、生活必需品でないものを購入するというハードルがテレビの時代から変わらず存在する。

 当然ながら、ゲーム機やゲームソフトが流通していない国・地域においては消費者の視界に映り込めない。つまり、任天堂のIPが消費者に届けられるルート・チャネルは以前から変わってないがゆえに、消費者へのアクセスの観点で相対的に不利なポジションに変わっていたのである。これは次世代の新規層獲得に大きな影響を及ぼしうる。

 この状況に対応するため、これまでのようにゲームを入り口に自社IPのファンになってもらうのではなく、先に自社IPのファンになってもらい、その後ゲームへたどり着く流れを強化する必要が生じた。

 そのための手段として、消費者目線でのハードルが低く、かつ任天堂IPの世界観をより正確に表現し、伝えられる映画やアニメなどの映像媒体を選択したと考えられる。

 「マリオ」の成功は競合にも影響を与えているようだ。ソニーグループは5月、家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)」の10以上のソフト実写化計画を発表した。23年はにわかに「ゲーム発IP×映画」の機運が高まっている。

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