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緊急時は“初動”が問われる いま経営層に必要な「リスクセンス」とは企業が備えるBCP(2/2 ページ)

» 2024年02月16日 08時00分 公開
[中澤幸介ITmedia]
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地震以外にも問われるリスクセンス

 地震に限らず、危機に対してリスクセンスを高めるためには敵と己を知るということが極めて重要になる。敵については、自然災害に加え、犯罪、サイバー攻撃、事故、不祥事、経済変化など、ありとあらゆる事象である。

 リスクマネジメントの国際規格であるISO31000では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しているが、日常的に自社の行動を妨げる出来事全てがリスクであり、そうしたリスクが顕在化して自社(あるいは自分)の目的達成を阻む状況になったとき危機となる。

 しかし、こうしたリスクが危機になるかならないかは組織の状況によって異なる。危機になったとしても、どの程度の影響をもたらすかも千差万別である。なぜなら企業の脆弱(ぜいじゃく)性が異なるからである。

 地震の対策をしている企業としていない企業では地震によって受ける被害が変わるように、コンプライアンス対策に取り組む企業と取り組まない企業では不祥事発生時の影響は異なる。

 こうした自社の脆弱性を知るには、(1)歴史、(2)地理、(3)物理、(4)環境、(5)情勢、という5つの危機事象ごとに考えてみるとイメージしやすくなる。

企業を例にした脆弱性分析の例

 「歴史」は、過去の事例とも言い換えることができる。自社と同じような会社がどのような被害を受けているかを知ることは、自社への危機をイメージする第一歩になる。地震なら、過去に地震被害で会社はどのような被害を受けているのか。サイバー攻撃だったら、過去にサイバー攻撃を受けた企業はどのような状況になったか、不正だったら、同じ規模の会社で不正を起こした会社がどのような影響を受けたか――。

 次に「地理」。地理的条件は、自然災害なら地形の成り立ちや地盤の固さ、活断層の有無、あるいは地政学的な意味合いも含む。地震の揺れやすさや液状化の可能性、浸水の可能性、噴火の影響などを知る上で重要だが、海外拠点などがある会社は紛争やテロにどの程度巻き込まれる可能性があるかを知る上でも重要な情報である。

 「物理」は、事象ごとの脅威に対して施設や設備がどの程度耐えられる強度を持っているかを考える。地震なら耐震強度ということになるが、サイバー攻撃ならハード面のセキュリティ対策に置き換えて考えることもできる。

 「環境」は幅広い概念であるが、例えば社員の能力・スキルであったり、年齢構成だったり、取引先の業種であったりと、組織内外に広く目を向けてみることが大切だ。最後の「情勢」は、当該事象に対する世論などの、社会の情勢である。

 「これほど社会的に重視されていたことなのに、わが社だけは対策をしていなかった」となれば、風評も含めて影響は深刻になるはずだ。こうした視点から、直面した危機に対する自社への影響を描いてみる。現時点で問題がなければ、3日後はどうなるのか、1週間後は、1カ月後は、1年後は、と中長期で影響を考え、最悪のパターンをシナリオ化することができれば、先手の対応が打ちやすくなる。

平時に想定していないことが緊急時にできるはずがない

 冒頭に書いたように、危機に直面した際、人はパニックに陥る。冷静に立ち振る舞えるようにするには日ごろの頭の中でのシミュレーションや訓練が不可欠になる。

 日本の危機管理の第一人者であり、18年10月10日に他界した故・佐々淳行氏にかつてインタビューをしたことがある。佐々氏はリスクセンスを高める方法について「過去の大災害や事故に関する記録や回顧録を読み、自分ならその時どのように対応をするか見取り稽古をすべき」と話していた。

 平時に考えていないことが、突然危機が発生した時にできるはずがない。そのシミュレーションや訓練を組織全体で行うことが、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の取り組みである。次回はBCPの取り組みのポイントについて紹介する。

著者プロフィール:中澤 幸介(なかざわ・こうすけ)

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2007年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。

国内外多数のBCP事例を取材。

内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザー、平成26〜28年度 地区防災計画アドバイ ザリーボード、国際危機管理学会TIEMS日本支部理事、地区防災計画学会監事、熊本県「熊本地震への対応に係る検証アドバイザー」他。講演多数。

著書に『被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ』『LIFE 命を守る教科書』、共著・監修『防災+手帳』(創日社)がある。

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