【開催期間】2024年1月30日(火)〜2月25日(日)
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【概要】国内で1100万人の労働力が不足するとされる「2040年問題」。それを乗り越えた先にある「2040年の理想状態」について、具体的に描けているだろうか。三重県CDOを経て“DXたのしむコンサルタント”を務める田中淳一氏を講師に迎え、今あらためて考える。
JR新潟駅から北西に伸びる大通りを歩くこと5〜6分、背の高いガラス張りのビルにたどり着く。その最上階、「新潟で今、最もおしゃれな職場」との呼び声も高いのが、インターネット広告事業を手掛けるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の新潟オフィスだ。
明るく広々とした執務エリアに入ると、壁いっぱいに描かれた新潟の風景画や、10人はゆうに入れそうな巨大なテントが目に飛び込んでくる。その付近ではカジュアルな格好の社員がPC画面に向かって黙々と作業をしている。
リフレッシュスペースには、お弁当を広げて談笑する人たち。とりわけ若い女性の姿が目につく。同オフィスで働く社員のほとんどが地元採用だ。新潟市にはデジタル関連企業が少ないこともあり、大学や専門学校を卒業した若者が多く志望する。新潟オフィスの現在の社員数は200人を超え、うち約7割が女性である。
DACが新潟市に進出してから5年。その成果を読み解いた。
「最初の地方オフィス(支社を除く)として、2014年7月に高知オフィスを開設しました。主にデジタル広告のオペレーション業務を担っていますが、ある程度の規模になり、現地の人材マーケットも飽和状態になったことから、新たな拠点を探し始めました」
DACで常務執行役員を務める貞岡裕達氏は経緯をこう振り返る。候補地選びのポイントとして、BCPの観点から南海トラフ地震のリスクがある太平洋側を外し、日本海側のエリアに着目。当然いくつもの都市が対象になった中で、日本海側で最大の人口約77万人を誇る新潟市を選んだ。
「人口規模に加えて、大学や専門学校などの教育機関が充実しており、われわれが求めている人材が多いのではと感じました。それと、競合になるデジタル広告系の会社が少なかったのも決め手になりました」
加えて、新潟県や新潟市が熱心に誘致してくれたことも、DACのオフィス進出に拍車を掛けた。
19年2月に拠点立ち上げ後、しばらくは高知で行っていたデジタル広告の入稿や進行管理といった業務をシェアして、新潟でも分担作業していた。次第に東京本社から直接移管した業務も増えていき、現在は東京のおよそ5割のオペレーション業務を新潟と高知へ移管している。その中でもメディア各社との調整業務に関しては、当初予定していた業務の約9割を移管済みだ。また、データ分析や中小企業(SMB)領域の営業支援など事業の幅を広げているところである。
未経験者が多く入社してくる状況の中、DACの全社的な人材育成システムを提供することで、1カ月ほどあれば一人で必要最小限の業務を動かせるレベルになるそうだ。
社員16人でスタートした新潟オフィスは、既に200人を超える。5年間で10倍以上に増加した。コロナ禍もどこ吹く風で、首都圏などからのUターン人材も獲得していった。
人材採用に際しては、地元のプロサッカーチーム・アルビレックス新潟との連携がうまく機能する。
「地道な採用活動を進める一方で、(B2B企業でもあり)知名度がほぼない状態からのスタートですから、アルビレックス新潟のオフィシャルクラブパートナーになったり、テレビCMを出したりしてアピールしています。東京などの大都市圏に比べると、入社・転職を決める最終決定は、自分自身だけでなく家族の意思も強いです。知名度を高め、安心感を持ってもらえるような施策は継続的に実施していますね」
その他にも、学生向けのマーケティングコンテスト「FULL SWAN CUP」を開催したり、インターンシップに力を入れたりする。このような新潟の若者との接点作りによって、DACの認知はじわりじわりと広まっていると貞岡氏は実感する。
社員数の増加とともに、事業面でもいくつかの成果が生まれている。上述したように、東京から地方オフィスへの業務移管率が5割を超えた。今後も割合を引き上げていきたいと意気込む。
社員のスキルアップとシステムの効率的な活用によって労働生産性も向上。新潟オフィスでは毎年オペレーション業務の1万時間削減を目標にしており、ここ数年間は達成を続けているという。
人材が育つことで離職率の低減にもつながっている。当初は年間約2割程度の離職率で、原因の一つにリーダーおよびマネジメント層の不在が挙げられていた。ゼロからの拠点立ち上げで経験者がいなかったため、基本的には東京本社からリモートでマネジメントしていたのだった。
「最低限の業務を進めるだけだったら、正直言って遠隔でも問題ないと思います。ですが、社員のちょっとしたコンディションの変化を察知したり、キャリアの相談を受けたりするのは、すぐ近くにいないとなかなか難しいのが実情でした」
5年たった今、新潟オフィスに在籍するリーダーやマネジャーも増えた。拠点内でマネジメントサイクルが確立できたのは大きな進歩だと貞岡氏は喜ぶ。
従前の課題が解消されたことで、離職率は1割以下に半減。さらには新潟出身のたたき上げ社員がリーダーに就いたことも、他のメンバーにとって良きロールモデルになっている。
現在オフィスを構える日本生命新潟ビルには23年2月に入居。信濃川にかかる萬代橋を渡った先にあった以前のオフィスと比べて、広さは2倍になった。そのことによって、空間にゆとりが生まれただけでなく、社員同士がコミュニケーションを取りやすい仕掛けも作ることができた。
一つは、冒頭に触れたスノーピーク製の巨大テント。オフィスのほぼ中央に置かれたテント内でミーティングをすることもしばしば。もう一つは、執務エリアと分断されたリフレッシュスペースである。
「休憩スペースをかなり広めにとっています。食事をとったり、読書をしたり。時には大型スクリーンでスポーツ観戦などの社内イベントも開いています。他にもこの新しいオフィスでは社員のコミュニケーションが活発になるような仕組みを設けています」と、クオリティマネジメント本部シニアマネージャーの岩本英子氏は説明する。
働き方に関しては、リモートワークも制度として浸透しており、多くの社員が週の半分は自宅などオフィス以外で仕事をしている。実は、新オフィスの席数は200程度であるため、全社員が集まると埋まってしまう。当然またすぐにオフィス移転というわけにもいかないため、リモートワークを有効に使いながらオフィスを運営していく方針である。
今後に向けた課題はやはりマネジメント人材の不足。3年後には社員数400人を目指す計画であり、同時並行で管理職の割合も増やしていきたいと考える。
また、社員一人一人のスキルアップも図っていかねばならない。
「業務効率化には常に取り組んでいるため、当面は問題ないと思います。ただし、今後はAIの活用も含めて、デジタル広告のオペレーション業務はもっと極端に効率化が進むと見ています。そのとき社員に他のスキルがなければ個人の新たな成長につながらない。今目の前にある仕事だけでなく、その先も見据えて学習しなければならないと痛感しています」(貞岡氏)
課題とまでは言わないが、新潟への貢献もこれからのテーマだとする。事業の構造上、自社サービスのオペレーション業務が中心だが、いずれは新潟の企業や団体などとも協業できればという。
「現状、地域に対する貢献は雇用面しかできていないんですよね。新潟の仕事をしているわけではないから。チャレンジになるとは思いますが、来年度あたりから県や市の業務の一部をBPOしたいと考えています」と貞岡氏は力を込める。実際、社員も地元貢献の気持ちが強いそうだ。
また、地域のビジネスを盛り上げていくためには、競合となるようなデジタル企業の進出も必要だと感じている。それによってマーケット全体が大きくなり、経済的にも相乗効果が生まれるからだ。DAC新潟オフィスの成功が呼び水となるか。
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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