「トヨタグループ」連続不正への提案 なぜアンドンを引けなかったのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/8 ページ)

» 2024年02月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

業務の一時的なペースダウンという対処療法

 さて、そして今、トヨタはこうした過剰労働問題を何とか解決しようと知恵を絞っている。佐藤社長の説明によれば、無理が常態化している部分を改善するために、仕事のペースをダウンするのだという。

 今、目の前にある現実に対する対症療法としてはそうすべきだ。筆者も出版社勤務時代、1人でしかも2カ月で1冊作れみたいな無茶な話を食らったことがある。しかもまだ編集経験がなかった取次営業職時代に、通常業務と並行してやれという無茶振りである。経営的には決算の調整のため売掛けを作りたいことは分かるのだが、やらされる側は堪(たま)ったものではない。徹夜の連続で本を作った。とうに絶版となっている『I love7 part2』というスーパーセブンの本だ。

 ヘロヘロになりつつも業務を完遂すると「なんだできるじゃないか」でそれが常態化する。最悪のケースでは「あいつにできたのだからお前もやれ」式に被害が拡大する。緊急事態に対する一時的対策だったはずの話が、いつの間にか当たり前になっていくのは非常にマズい。こうした状況を放置すれば不正は必ず再発する。

 豊田会長は、不正のあった3社の認証部門に自主研究グループを立ち上げた。各社にトヨタの生産調査部が入って、それぞれのグループの中で正常な認証の工程を確認し、その状態把握情報がどう流れているのかを検証して標準化を行う。それに応じた能力マップを作ることで、一人当たり作業量の原単位を確定する。この基準があれば、業務量の異常がはっきり確定でき、その異常を検知できるようになるはずだ。

 これは異常管理の考え方に基づいている。不具合や不良が発生してから気付くのではなく、いつもの状態、つまり正常管理の範囲に綻びが生じて、いつもと違う些細(ささい)な異常が起きていることを早期に検知して、不具合や不良を未然に防ぐ考え方である。

 難しく考えなければわれわれも普段からやっている。クルマに乗っていて「何か異音がする」とか、「アクセルの吹けが悪い」とか、そういう前兆を捉えて、事故の前に手当をする話である。

 少なくとも、目前の連続不正の引き金となった「過剰労働」を即時是正するという意味では、業務の一時的なペースダウンには効果があるし、避けては通れないと思う。

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