もちろん、優れたサービスを提供している米国企業をたたくつもりはない。生産性が上がるというのも理解できる。だが本来なら、自国で同じような技術を開発して、自前のサービスが選択肢として加わり、それがさらに増えていくのが理想だろう。
特に、データセキュリティやデータプライバシーの問題が世界的に取り沙汰されているなかで、自国民のデータやプライバシーを守るためには、自国で、つまり自国の法律や規制が行き届く環境で、情報インフラをコントロールするに越したことはない。
日本の通信インフラになっている無料通信アプリのLINEもしかりである。LINEはヤフーと合併し、日本のソフトバンクと、韓国のIT企業NAVER(ネイバー)が半分ずつ株式を保有するホールディングス企業の子会社になったが、LINEはネイバーを介して情報漏えい問題を繰り返し起こしてきた。そこで犠牲になるのは、他でもない、個人情報を漏らされてしまうLINEユーザーである。
LINEヤフーは今後、ネイバーへの業務委託を解消するとしているが、内部の関係者は「引き続きLINEのサービス開発は、ネイバーと関係が深い韓国の子会社が行う」と指摘している。(関連記事)
仮にこうした情報インフラを日本以外の国などが支配すれば、有事の際に通信インフラの遮断が起きることも十分に考えられる。それは、クラウドサービスも通信インフラも同じだろう。
デジタル赤字はデジタル分野における「敗戦」を意味すると言える。インフラを自国で賄えないからだ。ただ、さくらインターネットのように、数年前から準備をしてガバメントクラウドの一角になるところまで来た企業もある。同じような志をもつ企業がさらに増えることを願わずにいられない。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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