上司が謝ってしまったら……進むカスハラ対策、最大の難点は「あいまいすぎる境界線」河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)

» 2024年07月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

「過度な要求」ってどこまで? 誰が判断するのか?

 こんなケースもあります。

 2023年6月30日、自治体としては初めてカスハラ対策に乗り出した札幌市では、市役所内にカスハラの啓発ポスターの掲示し、電話対応が主要業務の「市民の声を聞く課」で住民に告知した上で、通話の録音をスタートしました(参考:札幌市Webサイト)。

 さらに今年からは広聴部門でも通話の録音を開始し、「世間話などで長時間の時間拘束に及んだと判断した場合、30分から1時間をめどに対応を打ち切る」「脅迫や強要などの行為があった場合に、ちゅうちょせずに警察など関係機関に連絡する」などと明記した「広聴部門におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル」の運用をスタートしています。

 しかし、ポスターにある「このくらい当然でしょ?」という過度な要求の境界線は? 強く言ってしまうのは「暴言」にあたるのでしょうか? そしてそれは、誰が判断するのでしょうか?

しいたげられ、苦しむ現場の声

 東京都の資料の下部に「上記の判断が難しいグレーゾーンも多い」と注釈が付けられているように、ほとんどのカスハラがグレーゾーンであり、そのグレーゾーンの多発が慢性的なストレスとなって、働く人の心をジワジワと傷つける。反復性や継続性のない「たった一度」の暴言でうつに至らしめたり、苦しめたり。

 先月、厚労省が発表したデータによると、仕事によってうつ病などの精神障害を発症し、2023年度に労災認定を受けた事案は883件。統計を始めた1983年度以降の過去最多を5年連続で更新したとのことですが、このうち「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が原因だったのは52件で、うち45件は女性、自殺者(未遂含む)は1人です。

画像提供:ゲッティイメージズ

 「たまたま目の前にいた人=働く人」を、たった一度の暴言でうつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけはない。

 外国人はちゃんと外で待っていてくれるのに、日本人はなかなか出てこない。そのくせ待機時間過ぎたのでキャンセルします、と連絡すると怒り出すから怖いです(タクシー運転手)

 男性は大声を出すから回りも気付きます。やっかいなのは女性です。ずっと文句言い続けて、挙句にお金を返せと。返すまで帰ろうとしない人もいます(サービス業の店員)

 駅からの道順が教わった通りじゃなかった。時間を無駄にしたと延々と怒られました。カスハラは日常茶飯事です。国が宿泊拒否を認めてくれたので、あまりにもひどい時は拒否しますが、なかなかそれも勇気がいるんですよね(ホテルのフロント)

 会社がどんなにカスハラ対策をアピールしても、なくならないですよ。何がきっかけで怒りだすのか全く分からないし、周りの人たちも見て見ないふりするし。昔はお客さんとお話するのが楽しかったですけどね。時代は変わってしまいました(航空会社の社員)

 これらは全て“現場の声“です。現場の人たちの声に耳を傾ければ傾けるほど、カスハラの日常性と、人々の顧客意識の過剰さを痛感します。

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