在宅勤務やフレックスタイム制など“従業員に優しい”人事施策や働き方は、近年のトレンドだ。その一方で、
1カ月前まで普通に働いていた従業員が、仕事のストレスから体調を崩してしまい、離職してしまった。
従業員にイキイキと働いていてもらうため、副業の解禁やフレックスタイムの導入などを行っているが、不満を解消できていない。
と悩む企業は少なくないようだ。その影には、誤ったウェルビーイング施策があるかもしれない。
本連載では、ウェルビーイングが注目される背景や、ウェルビーイング経営を推進するポイント・注意点などについてお伝えしていく。
昨今、人事領域において「ワークエンゲージメント」「マインドフルネス」など、働く人の気持ちや心に重きを置いたキーワードに注目が集まっている。中でも、注目度が高くなっているのがウェルビーイングだ。
ウェルビーイング(Well-being)は、直訳すると「幸福」「安寧」「福利」。WHO憲章では「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態(Well-being)にあること」と定義されている。
ウェルビーイング市場が活況を呈している米国では、数多くのサービスベンダーが参入している。米NPO「GLOBAL WELLNESS INSTITUTE」の調査によると、米国におけるウェルビーイングの市場規模は2022年時点で約1兆8000億ドル、日本円にすると約262兆円にも上っている。同年の日本における市場規模が約35兆円(予測)であることと比較しても、米国での注目度の高さがうかがえる。
なぜ米国で注目されているのか。これは、流動性の高い労働市場において、優秀な従業員を採用・確保し続けるために「従業員体験」が重視されていることが大きいだろう。
米国はジョブ型雇用が主流であり、入社後の異動や昇給はほとんどない。優秀な従業員はキャリアアップのために転職することが多く、企業は優秀な従業員を確保するために、「従業員体験」を魅力的にデザインする必要がある。その一環として、従業員の健康促進や幸福実現といったウェルビーイング向上の取り組みが盛んになっているのだ。
こうした流れを受けて、日本企業でもウェルビーイングの重要性が認識されるようになった。SXサービスを提供するUPDATER(東京都世田谷区)が企業の人事担当者を対象に実施した調査では、69.1%の企業が「ウェルビーイングへの取り組みの重要性を実感している」と回答している。
ジョブ型雇用ではなく、メンバーシップ型雇用が主流の日本において、なぜウェルビーイングへの注目度が高まったのだろうか。
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、リモートワークや在宅勤務が一般化した。これに伴い運動機会や対人機会が減少し、不安やストレスを抱える従業員が増加。従業員の心身の健康維持の重要性が叫ばれるようになり、ウェルビーイングに注目が集まるようになった。
2022年5月に経済産業省が発行した「人材版伊藤レポート2.0」では、ウェルビーイングの重要性について言及されている。エンゲージメントとの関連や、自律的なキャリア開発との関連について示唆されたことで、ウェルビーイング経営に関心を持つ企業が増加した。
例えばトヨタ自動車では、従業員が自由に使えるスポーツセンター利用サービスを提供しており、ロート製薬では全社員対象のウォーキングイベントなどを開催している。このような取り組みは、業種や規模にかかわらず全国の企業に広がっている。
取り組みの重要性
健康経営を実践することは、社員の健康保持・増進によって生産性や企業イメージ等を高めるだけでなく、組織の活性化や企業業績等の向上も期待されることから、経営陣に求められる重要な取組の一つとなっている。
また、社員のエンゲージメントの向上につながることから、心身を健康にするだけでなく、熱意や活力をもって働くことを実現する社員のWell-beingも、視点として重要である。
有効な工夫:Well-beingの視点の取り込み
Well-beingは、多義的であり、社員一人一人の価値観や働く目的が異なる中で、その意味するところも人それぞれである。
そのため、経営陣は、中長期的な企業価値の向上につなげる観点からWell-beingを捉え、それを高めるために、個々の企業の状況に応じて、多様な人材が能力発揮できる環境の整備や、自律的なキャリア開発の促進などの試行錯誤を重ねる。
「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 〜 人材版伊藤レポート2.0〜」より(参考リンク:PDF)
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