育児中社員の同僚のサポートに対し、人事評価や一時金などで報いる人事施策が近年、注目されている。建設業の大和リース(大阪府)が2023年4月から始めている「サンキューペイ制度」もその一つだ。
同社の施策の特徴は、一時金の原資を育休社員に支払うはずだったボーナスとし、また同僚の貢献度に応じて配分している点だ。ユニークな制度設計の意図や実際の運用について担当者に聞くと、建設業全体、ひいては日本企業にとって無視できない課題を同社が見つめ、施策を打ってきた経緯があった。
「サンキューペイ制度」が施行されたのは、2023年の年末賞与から。育休社員のボーナス原資を、不在期間の業務をカバーした同僚に配分し、ボーナスに上乗せして支給する。支給額は上長の判断で、貢献度に応じて差をつける。
制度が生まれたきっかけは男性育休の増加にあると、同社の佐伯佳夫氏(上席執行役員 人事部長)は話す。会社が男性の育休取得推進に力を入れる一方で、現場には女性社員の産育休とは異なる課題が生まれていた。
女性社員の場合は、産前は6週間、産後は8週間の計14週間を産休に充てることが義務付けられている。また、そこから連続して長期の育児休暇に入ることが一般的だ。ある程度、長期間の不在が想定されるため、代わりの人員補充などを行いやすい。
しかし男性育休の場合、状況は異なる。同社では90日以上の育休を取得した男性社員に対し100万円を支給しており、この後押しもあって90日以上の取得割合は35%に伸びた。しかし、大多数は3カ月未満だ。また育児・介護休業法の改正により、男性育休は「分割取得」が可能になった。
「数週間や1カ月程度の休みを断続的に取得するとなると、他部署から代わりの人員を補充するなどの選択肢は現実的ではない。また、仮に半年などの長期で休む場合でも、すぐには後任を配置できず、空白期間はどうしても生まれてしまう。すると、選択肢は同僚のサポートしかない。
同僚が少しでも前向きに応援し、また育休取得者も同僚に気兼ねなく引き継げるような仕組みを用意しないと、男性育休の長期化は難しいだろうと考えた。会社が払う必要がなくなってしまった育休取得者のボーナスを、この制度に充てようと考えた」(佐伯氏)
2024年の夏季には、43人の育休取得者のボーナスを139人に分配した。平均的な支給額は15万〜17万円程度だという。
同社が資金を投じて、育休の取得を推進するのはこれが初めてではない。前述したように、子どもが誕生した社員に対し、子どもの数や育休の取得期間に応じて一時金を支給する「エンジェル報酬金」制度を設けている。
この制度のユニークな点は、ある「シート」の提出を必須としていることだ。その名も「育児・家事シェアシート」。50項目以上にわたる育児や家事のタスクを育休中にどれだけ実行していたか、男性社員の配偶者に記入してもらい提出する。
休暇中の家庭での様子を、なぜ把握しようと考えたのか。「取るだけ育休」を防止し、ひいては女性活躍につなげるためだと、佐伯氏は説明する。
建設業界は男性社会だ。大和リース社員の女性比率は、業界内では高い方だとはいえ25%程度にとどまる。一方で今後の人口減少を考えると、女性やシニア層などの活躍は欠かせない。
「活躍の意欲ある女性は多くいても、家事、育児、介護などの負担が女性に偏っているという構造的差別の問題がある。これらをパートナーとシェアしていく体制づくりをすることによって、働く時間を確保できて、社会進出していく女性たちが建設業や当社を選んでくれたらいなという思いがある」(佐伯氏)
社員はどのように捉えているのか気になるところだが、「意外と好評」だと人事部インクルージョン推進室長の岸田佐和子氏は明かす。
「妻から夫への感謝が現れたり……逆もあるが(笑)、家庭内のコミュニケーションにつながっている様子だ。従業員の生活環境の確立あってこそ活躍が可能になる、という当社の理念を反映している」
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