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アルゴリズムの「発展と影響」 現代のSNSマーケをどう変える?電通デジタルが読み解く、SNSマーケの最旬トピックス

» 2024年10月09日 08時30分 公開
[天野彬ITmedia]

連載:電通デジタルが読み解く、SNSマーケの最旬トピックス

デジタルマーケティングの世界では、大きな変化のうねりの中で日々、新たなアイデアやトレンドが生みだされ続けている。そんな中でも、特に生活者との重要なコミュニケーションの場になっているのがSNSだ。生活者の心を動かし、ブランドグロースや事業成長に寄与する施策はどんなものだろうか。また、SNSで話題になっては消えていくトピックスの中で、本当にキャッチアップするべきものをどう選別し、そしてどんな視点で解釈するべきか。日々さまざまなマーケティング施策やコンテンツに触れている、電通デジタルのメンバーがSNSマーケの最旬トピックスを解説していく。

 今回は、いまやSNSやデジタルメディア全般に関わるうえで欠かすことのできない「あなたへのおすすめ」を裏側で支える「アルゴリズム」について説明します。

 情報が増え続ける現代、それを仕分けてくれるアルゴリズム(機械が準拠するデータ処理のルール)の重要性はどんどん高まっており、受け手側の私たちにとってもその仕組みやルールは、知るべき教養の一部になっています。

SNSやデジタルメディアの裏でアルゴリズムが働いている(画像:ゲッティイメージズより)

 実際、ほとんどのソーシャルメディアでは、たくさんの人に長い時間見てもらうために、ユーザーの行動データを基に「最もその人のアテンション(視聴時間)を高めるコンテンツ」をおすすめするようアルゴリズムが最適化されているのです。

 その結果、皆さんが日ごろ使っているソーシャルメディアの形は、友人や知人とつながり、ネットワーク上で近況をシェアし合う場所(ソーシャルグラフ)から、アルゴリズムがおすすめする人気コンテンツを視聴する場所に変容しつつあるわけです。

 本稿では、そうした転回の在り方を「ソーシャルグラフからアルゴリズムへ」とまとめることで、近年のSNSが直面する変化について考察します。

 それは、この10年間ほど基調的だった「共感」のモードが「注目」のモードに移り変わっていくことを意味しています。その変化がソーシャルメディアクリエイティブ(ソーシャルメディアやSNSにおける投稿や画像・動画)の戦略にどんな影響を与えるのか、読み解いていきましょう。

アルゴリズムの歴史 1歩目は「メールの仕分け」

 アルゴリズムは、とはいえぽっと出の技術というわけではなく、30年余りの技術的蓄積の上に成り立っています。その始原は1990年代といわれており、当時は情報をいかにフィルタリングするかが重要な命題で、身近なところではメールの仕分け(迷惑メールの除去など)に活用されていました。

 2000年代は米Amazon.comの研究者たちが発表した協調フィルタリングが存在感を強めました。商品の相関関係に基づくおすすめ──「Aを買っている人の多くはBの商品も買っています」的なもの──が、私たちの生活に浸透していきました。特にAmazonが扱う書籍のような趣味趣向が色濃く反映される商材との相性は抜群でした。

2000年代はAmazonの研究者たちが発表した協調フィルタリングが存在感を強めた(画像:ゲッティイメージズより)

 2010年代に入ると機械学習・深層学習の進化によって高度化が加速。YouTube、Netflix、Spotifyなどのコンテンツプラットフォームにおいて、ユーザーの行動データを分析して一人一人に合った「おすすめ」が提供されるようになっていきます。

 そして、ソーシャルメディアの領域でその仕組みを効果的に活用したのがTikTokです。ユーザーの8割以上が、自分がフォローするアカウントで構成される「フォロー中」のタブではなく、「おすすめ」タブを見ていることが明らかになっています。これは多かれ少なかれ他のソーシャルメディアにおいても同様で、情報の差配(ディストリビューション)をアルゴリズムが担うようになっています。

 ユーザー体験のパーソナライズ化は、今日においては自明の前提です。とはいえ、こうした技術が発展してきた必然性もあります。私たちの可処分時間は増えないのに対して、特にスマートフォンが普及しSNSが根付いたことで情報量が天文学なレベルで増大しており、それらを捌(さば)ききれないという純然たる「ペイン」の存在です。機械に代替してもらわなければ立ち行かないし、ユーザー自身がそのペインを解消してくれる利便性を渇望しているのです。

アルゴリズムはSNSのかたちをどう変えるか

 アルゴリズムが私たちのコミュニケーション体験を利便化する一方で、どんな技術にも付き物ですが、そのネガティブな側面についての議論も活発になってきています。

 ソーシャルメディアの領域ではどうでしょうか?

 日本ではあまり表立って議論されていないように見受けられますが、海外のジャーナリズムにおいてはSNSがアルゴリズム中心のものに変化したことを指摘する論調が見られます。もともと友達や知人とつながり、情報を共有するための場だったのに、その交流機能が薄れ、情報が届けられ続ける「メディア」としての色合いが強まりすぎているのではないかということです。

 広告・クリエイティブのインディペンデントメディア「Contagious」の「Is this the end of ‘social’ media? 」(Contagious, 2023 Dec.) という記事では、インターネット文化に詳しい作家のコーリー・ドクトロウの「enshittification」という概念を引用しながら、「ソーシャルメディアがプラットフォームとして成熟段階に入ったことで、ユーザーとの関係性が変化しつつある」と述べています。

 ユーザー間の社会的交流と、高精度なおすすめがもたらすパーソナライズされた広告エクスペリエンスとの均衡に腐心するのは、ソーシャルプラットフォームがユーザーと広告主という売り手・買い手をつなぐ「両面性市場」としての役割を持つからに他なりません。二者択一ではなく、そのバランスこそを見なければならないというわけです。

 またEconomist誌のコラム「The end of the social network」(The Economist, 2024 Feb.) も大きな反響を呼びました。

 アルゴリズムがもたらす快適なブラウザ体験によってソーシャルメディア上で過ごす時間は増加する一方で、もともとの機能だった友人や知人のつながり=ソーシャルグラフに基づく情報の共有が減ってしまっていること。さらに、オープンな場でのUGCの数が減少し、ユーザーは社会的交流の機能をメッセンジャーサービスなどクローズドな場に求めるようになっていることに注目しています。

 これらの記事からは、ソーシャルメディア自身が技術の進化と共に変化するダイナミズムを無視し、これまでの在り方をやや神聖視しすぎている傾向も感じられます。しかし、この領域の中長期的な変化を考えるうえで有用な視点を提供してくれるのは間違いありません。

 では、アルゴリズムは、ソーシャルメディア領域におけるマーケティング・コミュニケーションにどのような影響を与えるのか? 次にそれを考えてみたいと思います。

「共感」と「注目」の天秤 そして、コンテンツは二極化する

 アルゴリズムが王座に君臨している「SNSの新しいフェーズ」をマーケティング・コミュニケーションの視点からどう位置付け、評価するべきでしょうか。

 まず、人々がSNSを通じてつながり、ソーシャルグラフが構築されていった2010年代は「誰が言うか」(WHO)の重要性が際立った時代でした。インフルエンサーマーケティングが隆盛したのもまさにその時代相によります。ひるがえって、アルゴリズムがコンテンツを評価し、迅速に個々のユーザーへとディストリビューションする2020年代は「何を言うか」(WHAT)が大切になる時期であると整理できます。

 このシフトは「誰が言うか」に支えられた<共感>(エンゲージメント)と、「何を言うか」の<注目>(アテンション)との対比に重ね合わせることができるでしょう。もちろんどちらも大事で、都度その天秤は傾きを変え続けるわけですが、より<注目>側に注意を払う必要が高まっていくと考えられます。

ソーシャルグラフ時代は「誰が言うか」が重要だったが、アルゴリズム時代には「何を言うか」の重みが増した(画像:ゲッティイメージズより)

 そしてその帰結として、投稿の受容性がより二極化していくのではないかとも予想されます。言い換えると「ホームラン」と「三振」の数が増えるということです。

 つまり、これまで多くのフォロワーを抱えていたアカウントが、そのフォロワーベースで投稿のリーチを広げていくという従来の安定的な戦い方が通用しなくなります。だからこそ、「ヒット」を打ち続けることの価値が増していくともいえるわけで、SNSのオーガニック×アドを組み合わせた運用の在り方が問われることになるでしょう。

 先に述べたように、私たちのコミュニケーションは、メッセンジャーサービスや既存SNSのDM機能、さらにはDiscordのように、より小さく、より厳しく管理されたコミュニティにサイロ化(蛸壺化)する傾向が強まっていく見通しです。分散化が進み、徐々に不可視的になり、それらの結果として効果の計測が困難になっていく可能性もあります。

 しかし、企業・ブランドがコミュニケーションメッセージを紡ぎ続け、生活者たちは消費のトレンドや自らのライフスタイルにまつわるUGCを発信し続けていく構図は、これからも不変であると思います。

 そのため、ここまで論じてきたソーシャルメディアの転回の中で、私たちはアルゴリズムへの解像度を高め、クリエイティブを創意工夫し、新たなディストリビューションの回路への対応を進めていく必要があります。

 見通しづらくなる生活者の価値観やコミュニケーションのトレンドを把握するためのリサーチ手法に不足はないか、再度検証することも求められるでしょう。それらの不透明性にどう対処するか、そのためのナレッジと実践がいま以上に肝要になる時代へと私たちはすでに足を踏み入れてしまっているのです。

著者紹介:天野 彬(あまの あきら)

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1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修了(M.A.)。SNSのトレンドやマーケティング活用に関するリサーチ・コンサルティングが専門。電通デジタル プラットフォーム部門ソーシャルプラットフォーム部 兼 ソーシャルコネクトグループ所属。日経Think! エキスパートコメンテーター、明治学院大学社会学部非常勤講師。TikTok for Business Japan Awards 2024 Creative Category審査員。主著に『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』(2022年、世界文化社)。その他、『情報メディア白書』(共著)、『広告白書』(共著)など。

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