米OpenAIから幹部たちが次々と去っていっている。その中には、CTOのミラ・ムラティ氏、チーフリサーチオフィサーのボブ・マグリュー氏、共同創業者のイリヤ・サツケバー氏やジョン・シュルマン氏など、数々の重要ポストを担った人々が含まれている。
今年だけでも、これだけの著名なメンバーがOpenAIを辞めている現状は、単なる偶然ではないだろう。
ミラ・ムラティ氏がOpenAIを去ることを発表したのは9月26日のことだ。その日に、サム・アルトマン氏が彼女のこれまでの貢献を称えるメッセージを社内に送っている。
しかし、Fortune誌によると、ムラティ氏がアルトマン氏に退社を告げたのが当日の朝だという。アルトマン氏は円満退社に見せたいのかもしれないが、当日の朝に告げるのが円満退社だろうか。退職が次々と続く背景には、OpenAI内部の複雑な事情が透けて見える。
多くの人がOpenAIを辞める理由として挙げられているのは、AI安全性とアラインメントに対する懸念だ。特にイリヤ・サツケバー氏やヤン・ライク氏といった技術者たちは、OpenAIの安全性への取り組みに不満を抱いていた。
また、会社の方向性の変化も影響している。非営利目的で人類のために安全なAIを開発するという当初の使命から逸脱し、金儲けに走り始めたと感じる人たちがいるのだ。
さらに、リサーチチームと製品チームとの対立も深刻だった。製品発表を急ぎたい製品チームと、安全性の検証を優先したいリサーチチームが激しくぶつかり合い、経営陣はその対立を解決することができなかったという話もある。また、AI安全性に焦点を当てたSuperalignmentチームへの予算が限られていたことも、ヤン・ライク氏の退職の一因だ。
興味深いのは、ジョン・シュルマン氏が米Anthropicに移籍した点だ。彼はOpenAIの共同創設者であり、ChatGPTの開発におけるキーパーソンでもあったが、「AIアラインメントにおいて、より直接的な技術研究に戻りたい」という理由でライバル社に転職した。他にも、ティム・ブルック氏がSoraの開発者として英Google DeepMindに移籍し、動画生成や世界シミュレーションのプロジェクトに参加している。
サム・アルトマン氏自身の姿勢も批判の対象となっている。かつて彼は上院で「OpenAIからは健康保険に必要な額しか受け取っておらず、株式も持っていない。この仕事が好きだからやっている」と語っていた。しかし、現在OpenAIは完全な営利目的の株式会社への移行を議論しており、アルトマン氏が7%の株式を取得するといううわさまである(アルトマン氏自身はこれを否定しているが)。
OpenAIの組織としての在り方は大きく変化してきた。2015年に非営利団体として発足し、安全なAIを人類のために開発することを使命としていた。しかし、2019年に資金調達のために非営利団体の子会社として株式会社を設立し、現在は営利目的の企業へと完全に移行しようと議論が進められている。こうした組織変化に対して、元リサーチャーのウィリアム・ソーレンダーズ氏は「製品化を急ぐあまり、安全性がないがしろにされている」と懸念を示している。
業界全体の反応はさまざまだ。アルトマン氏のリーダーシップに対する信頼を失った者たちが去ったことで、社内の結束が強まり経営のスピードが上がるという見方もある。実際、OpenAIは最近1570億ドルの評価額で65億ドルの資金調達を完了しており、少なくとも投資家たちはこの変化を好意的に捉えているようだ。しかし、テック業界の著名人たちからの反応はほとんどなく、今はただ「アルトマン氏のお手並み拝見」という状態なのかもしれない。
幹部たちの退職は、OpenAIの未来にどのような影響を及ぼすのか。技術力の低下を招くのか、それとも一層強力な経営体制で再出発するのか。テック業界は、今まさに岐路に立つOpenAIの行方を静かに見守っている。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「どうなるOpenAI! 幹部が大量に退職」(2024年10月10日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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