「2023年まで、人型ロボットの市場が立ち上がるのにあと10年はかかると思われていた。ところが24年になり、米国のテレビの人気ニュース番組でも人型ロボットを取り上げるようになった」
ロボット市場に詳しい専門家として多くの企業のアドバイザーを務めるScott Walter博士は、YouTube上のインタビューでそう語っている。なぜ大手メディアが人型ロボットを取り上げるようになったのか。生成AIの進化を受けて、人型ロボットが急速に進化し始めたからだ。
元ベンチャーキャピタリストで、テスラ社の動向に詳しいインフルエンサーの一人Herbert Ong氏は、同じインタビューの中で「今年に入って、ほぼ毎日のように人型ロボットに関する大きなニュースが続いている」と指摘している。
例えばシリコンバレーの人型ロボットベンチャーのFigure社は、1月18日にBMWとの提携を発表した。BMWは今年1年かけて人型ロボットの活用方法を検討したあとに、サウスキャロライナ州の工場に実際に導入する計画だ。その後は、AI、ロボット制御、デジタルツイン、ロボットインテグレーションなどの分野でFigure社と共同研究を行うという。
果たして人型ロボットがどの程度の成果を上げるのか。世界の製造業に関係する企業がこの提携の結果に注目しているといわれている。
また、Figure社は2月に6億7500万ドルという巨額の資金調達に成功している。出資したのは、Microsoft、OpenAI、NVIDIA、Amazon、Amazonの創業者Jeff Bezos氏、著名ベンチャーキャピタルのParkway Venture Capital、Intel、韓国LG、Samsungなど。それぞれの業界のトッププレーヤーが顔をそろえている。
3月15日には、米テキサス州の人型ロボットベンチャーApptronikが、メルセデスベンツ社の工場への人型ロボットの導入計画で合意に達したと発表した。
この他にも中国上海のUnitree Roboticsのロボットが3月に秒速3メートルでの歩行に成功し、Boston Roboticsの記録を破った。カナダのロボティックスベンチャーSanctuary.aiは、ブロック分別タスクで人間並みの速度を達成したと発表している。
なぜ人型ロボットがここにきて急速に進化し始めたのか。生成AIが文字情報だけでなく映像、音声などマルチなモード(データの種類)に対応できるようになり、そうしたマルチモーダルな生成AIを搭載することでロボットの性能が急速に向上し始めたからだ。
Scott Walter博士は「去年まではロボットに搭載するAIの進化が必要だと考えていた。しかし生成AIが急速に進化した。AIのほうがロボットのハードより先行している。今はAIに合わせたハードの進化が待たれるぐらいだ」と語っている。
Herbert Ong氏によると、人型ロボットは今年から来年にかけて工場や倉庫などへの導入が始まり、その後の成果を見て製造業に一気に普及する見通しだという。その結果、価格が低下し性能が向上、数年後には店舗や家庭向けのロボットも普及し始めるだろうとしている。
投資家のCern Basher氏がまとめた下の表によると、人型ロボットのベンチャーは、米国と中国に多く誕生してきており、日本と韓国ではまだその動きが見られないとのことだった。
本記事はエクサウィザーズのAI新聞「生成AIの進化を受けて人型ロボット市場が立ち上がり始めた」(2024年3月27日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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