「生成AI、インパクトは顧客対応の領域へ」という記事で「次回の原稿では、生成AIの進化がロボティックスの分野を大きく進化させている現状について解説したい」と書いたにもかかわらず、「世界はシンギュラリティの入口に入った!?」という記事を書いてしまった。ごめんなさい。
さて予告したので、今回はロボティックスの話。生成AIが顧客対応領域にも利用されるようになるというのは大きな話なのだが、OpenAIのサム・アルトマン氏は今年もっと大きな変化がAIの領域に訪れると語っている。
昨年末に米・サンフランシスコで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力機構)のイベントで司会者から「2024年に起こるサプライズは」と聞かれたアルトマン氏は「AIモデルは誰も予想しなかったレベルにまで大きくジャンプして進化する」と答えている。
「誰も予想しなかったレベルへの進化」とはどんな進化なのだろう。いろいろと憶測が飛び交ったが、AI業界の中ではこの進化がAIのエージェント化ではないかという意見が主流になっている。
今のAIは、質疑応答が主な機能だ。人間が質問したことに対して知っていれば答えるし、知らなければ「知らない」と答えるか、もっともらしい嘘をつく。最近ではネット検索の機能が搭載されて、知らない情報については検索して答えるようにもなってきている。
試しに「人気の5ナンバーの日本車を10車種選んで、それぞれのサイズ(全高、全長、全幅)をリストアップして」と聞いてみると、10車種ではなく5車種のサイズをリストアップして、「残りは自動車メーカーのサイトでご確認ください」と答えてきた。情報源を調べてみると「人気5ナンバー5車種」というニュース記事だった。たまたまそういう記事を見つけることができたので、5車種だけ答えることができたようだ。
AIがエージェントになると、どうすれば人間の質問に答えらえるかを自分で考えて実行するようになる。上記の質問の場合、どう変化するのか。
まず人気10車種のリストを検索し、その後大手自動車メーカーのWebサイトサイトにアクセスして、5ナンバーの車種のサイズを取得する、という行為を10回繰り返すというアクションが必要だ。AIがエージェントになれば、こうしたアクションを自分で決めて、自分でアクションを実行していく。
つまり今のAIは人間が探し出してたどりついた知見があれば、それを見つけて答えてくれるが、人間が出した知見がなければ「知らない」という答えになる。一方AIエージェントになると、自分でネット上を動き回って1つの知見にまとめることが可能になるわけだ。
この自分で考えて自分で動く、という能力は非常に重要で、この能力が身につくことで、AIは人間以上にどんどん賢くなっていけるわけだ。
まずはこの能力を身に付けたAIは上記の例のように、ネット上を動き回って、新たな知見をどんどん身に付けていくことだろう。
次にAIはアバターのような身体性を持ち、メタバースのような仮想3次元空間の中を動き回ることで、身体の動かし方と動かした結果の相関関係を試行錯誤しながら学んでいく。前に障害物があるのにそのまま前進していくと、ぶつかってしまう。この当たり前のことを、本やネットで得た知識としてではなく、実体験として学んでいくわけだ。
そして身体の動かし方を学んだAIはロボットに搭載される。ロボットは現実空間を動き回り、その身体を通じていろいろなことを学んでいく。本を大量に読んで世の中を知った気になるのではなく、自分でいろいろ体験して学んでいく。どちらのほうがよりよく世の中を理解しているかと言えば、後者だろう。AIはさらに賢くなるわけだ。
さらにAIは無人ロケットや円盤のような宇宙飛行物体に搭載され、宇宙のすみずみまで動き回り、宇宙についていろいろと学んでいくことだろう。
また超小型ロボットとなって人間の体の中に入り、動き回って人間の身体や脳についていろいろと学んでいくことだろう。
AIがエージェントになることで、宇宙の謎や人体、精神の謎なども解明されていくに違いない。いや、宇宙や人体の謎はAIでなければ解明されないかもしれない。
AIがエージェントになると、そうした未来が開けるわけだ。これがアルトマン氏の言う「誰も予想しなかったレベルへの大きな進化」なのだと思う。
あれ? 結局ロボティックスの話ができなかった。その話は次回のお楽しみ、ということで失礼します。
本記事はエクサウィザーズのAI新聞「今年のAIの最大の進化は、エージェント化」(2024年3月19日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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