攻める総務

脱・お役所管理 総務の「現場を動かす」コミュニケーションには何が足りない?「総務」から会社を変える

» 2024年12月12日 08時30分 公開
[豊田健一ITmedia]

 総務は顧客、つまり従業員のために、環境整備や新たな施策を企画運営していく。その際、付いて回るのが「ルールの周知」だ。「このようにしてください」「これを守ってください」と知らせる必要がある。総務はお役所的な仕事をする、そのように言われるゆえんでもある。

 総務としては「しっかりと守ってもらわないといけない」と、その施策を入れた目的よりも、そのルールを守ることを目的としてしまいがちである。当初立てた目的の達成により近づくのであれば、そのやり方やルールは変わってもいい。しかし、その目的はどこへやら、方法論、ルールだけが独り歩きして、形骸化していくのだ。

ルールが独り歩きしたり、形骸化したりしていないか?(画像:ゲッティイメージズより)

 確かに、法律の絡むものやコンプライアンス的に絶対守らなければならないものは数多くある。社有車でのアルコールチェックは、事故を起こさなければやらなくともよいとはいかない。このルールは厳守しなければならない。

 総務の仕事には、このような法律の絡む「MUST」的な仕事と、さらによりよくする「MORE」的な仕事の2種類がある。MUSTは厳守、MOREは目的をしっかりと理解し、ある程度の許容範囲の中であれば、従業員が自律的に動きを変えてもよいものである。この区分けは意識したいところである。

 では、従業員が必要以上のルールに縛られることなく、より自律的に動けるようにするために、総務はどのような動きをする必要があるのか?

「What」の重要性

 従業員が目的に応じた許容度の中で自律的に動ける、MORE的な施策を実行するためには「What」と「Why」を共有することが重要になる。Whatは「何を目指すのか」、Whyは「それはなぜか」を指す。

 つまりは目的と、その目的を実現しなければならない理由である。これを伝えたのち、「であるから、こうしてください」(How)を伝えるのだ。

 冒頭に記した、ルールの周知は往々にしてこのHowだけを伝えることに終始している。Howだけを伝えた場合の反応は2パターンに分けられる。

  1. なぜそれを行うのか、その理由を質問する
  2. 思考停止状態で、とにかくルールを墨守する

 後者は、しっかりとルールを厳守してくれるのだからありがたい。通常であれば当然問題はないが、環境変化に伴い、そもそも当初設定していた目的が時代遅れになったり、むしろ弊害となってしまったりした場合はどうだろうか。ルールだけ墨守されると問題に転じる。

 例えば、備品購入時は書類に記入しなければならないというルールがあったとしよう。これまでは紙に書き込んでいたかもしれないが、デジタルツールを活用し、デジタルデータとして残す方法も一般化してきた。手段は変化しているのに、「ルールだから」という理由で紙での申請を墨守することに意味はあるのだろうか。

 記録に残すのは情報伝達という目的のためだ。その目的を達成できるのであれば紙でもデジタルでもよいだろう。むしろ、わざわざ出社して紙に書き込むというのは非効率だ。Howだけでなく、その目的をしっかりと伝えることで、「その目的であるのであれば、別の手段でもよいはずだ」という気付きが生まれる。もちろん、法的に紙でなくてはいけない申請も存在する。目的に立ち返ることで、手段を絞っていくことが重要なのだ。

 Howだけを伝えて何事もなく進んでいる状態は、むしろ危険といってもいいのかもしれない。理由を質問される方がよい。「面倒だな」と思うかもしれないが、質問されるということは発信する側がしっかりと目的を伝えていないということだ。場合によってはそのような質問のおかげで他の選択肢に気付くなど、副産物も期待できるかもしれない。

 目的が理解できれば、従業員も環境の変化があったとて目的に立ち返りながら方法を変えて対処する余地が出てくる。もちろん、法律が絡むルールは厳守しなければならない。ただし、そのルールの中で目的に応じた運用の改善は積極的に挑戦してもよいのではないか。

 総務はHowの発信においては、一言「当面はこの方法がベターかもしれないが、決してベストではない。ベストな方法は、むしろ現場のみなさんが使うにあたって、工夫と改善をすることで見つけていってほしい」と伝え、許容範囲を示すのが好ましいだろう。

「Why」の意味

 人はとかく意味を求める生き物である。なぜそれをやるのか、その理由を知りたいのだ。そこで重要となるのが「Why」である。何を目指すのか、何が目的なのか、そして、それはなぜなのか。理由が分からないと、腹落ちせず行動変容につながらない。

 Whatを伝えたら、必ずセットでWhyを伝えたい。理解だけでは人は動かない。理由があって初めて動く。そして、この理由も、自分にとっての理由、メリット、ベネフィットがないとなかなか納得してくれない。理解はできても、共感や納得はしない。結果、分かっていても使わない、やらないになってしまう。

 理解しかできていない状態では、嫌々取り組むケースはあっても、モチベーション高く、改善意欲を持って取り組むまでには到達しづらい。共感して、進んで使う、行うことで、さらによりよくするにはという改善マインドも喚起される。利用者が勝手によりよい方法を見つけて実行してくれれば、目的にも到達しやすい。ドライブがかかってくれば、それを企画した総務部の貢献にもつながるのだ。

 ある意味、現場従業員の自律性を喚起し、勝手に改善活動が進んでいく、総務部としては理想の状態が構築できるのではないだろうか。社内へのコミュニケーションに一工夫加えることで、現場が貢献してくれて、総務も楽になる

 お役所的に管理するのではなく、現場の自律性を高め、現場でよりよくできるように、しっかりと目的と、それを行うべく理由を伝える。当たり前と言えば当たり前だが、意識して行いたい、総務のコミュニケーションである。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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