攻める総務

「総務のプロ」はどう目指す? 社内外で「引っ張りだこ」になる経験の積み方とは「総務」から会社を変える

» 2024年11月11日 08時30分 公開
[豊田健一ITmedia]

 月刊総務オンラインの「月刊総務調査」によると、総務職の42.0%が「転職意向がある」と回答している。

総務職の転職意向(画像:月刊総務「総務の仕事についての調査」より)

 その理由として最も多かったのは「総務スキルを生かしてキャリアアップしたいから」(48.7%)だった。以降「年収を上げたいから」(35.9%)、「規模が違う会社で働きたいから」「業種が違う会社で働きたいから」(25.6%)と続いた。

 3、4番目も、さまざまな経験を通じてキャリアアップしたいとみてよいだろう。キャリアアップというと「転職」や「異業種への挑戦」が候補として浮かぶが、果たして総務にも当てはまるのか?

転職を検討している理由は?(画像:月刊総務「総務の仕事についての調査」より)

総務のプロは何の「プロ」なのか? 社外でも有利に

 別の調査で「2030年に目指す総務の立場と現在の総務の立場」を尋ねた。多くの総務パーソンが「プロフェッショナル」を目指していることが分かる。ここで言う「プロ」とはどのようなプロを指すのか?

2030年に目指す総務の立場と現在の総務の立場(画像:月刊総務「総務の仕事についての調査」より)

 総務の仕事は、各社各様であることが多い。ガラパゴス化していると言っていいかもしれない。同一業務名であっても、フローが異なることが多い。自社のフロー、タスクに精通したとしても、そのまま他社で通用するとは限らない。タスクのプロとなっても、社外に出たら一から出直しということも少なくないと思われる。

 一方で、分野のプロであれば他社でも成立する。リスク管理、ファシリティマネジメント、ガバナンス、福利厚生、健康経営、社内サービスなどの分野のプロであれば、コンサルタントとしてのニーズも高いだろう。総務のプロを目指す上での一つの視点としては、社外でも通用する分野のプロを目指すことだ。

 分野のプロは転職しなくても目指せる。今の業務の次元を徐々に、高次、上位にシフトしていくことで、社内においてもキャリアアップが可能だ。

 例えば、リスク管理であれば、まず車両管理から入り、事故削減・事故対応という車両に関連するリスク管理に携わる。少しずらして、オフィスのリスク管理、防災対応を担当。次にセキュリティ対応、あるいは、企業不祥事防止、そのようにリスク管理つながりで業務の経験を積んでいく。このように帰納法的に本質をつかんでいく。

 その本質がつかめれば、業務フローや状況が変わったとしても応用できる。つまり、分野のプロになるとは、その分野での汎用性、応用力を身に付けることなのだ。転職するにせよ、社内でキャリアアップするにせよ、社外で通用するプロを目指したい。

総務のキャリアアップ 現場・他職種の経験は吉か凶か?

 『月刊総務』にマネジャークラスの総務を取材するコーナーがある。すでに90人ほどに登場してもらっているが、ずっと総務職という人は少数派である。元営業、元SE、元広報とさまざまだ。さらに、他職種から総務に来て、他職種に異動して、再度総務という人もいた。それも意図した異動なのである。

 実は、筆者も新卒でリクルートに入社してから、経理、営業、経理、営業、そして総務に異動という道をたどっている。これは総務のキャリアパスとして良いのか、悪いのか?

 総務の顧客は現場の従業員だ。どれだけ、顧客に寄り添って企画できるかがポイントとなる。顧客を理解し、顧客目線に立ち、顧客のために仕事をすることを考えると、総務以外の職種を経験し現場を知ることは強みとなる。また、現場に対しての説得力となるのだ。

 筆者も1年目の経理のとき、マネジャーに「経理で大成したければ、一度現場を経験しなさい」と言われて、2年目に営業を経験した。3年目に経理に復帰した際には、伝票を見るだけで現場の動きが手に取るように分かるように。そうすると、現場の状況に応じた適切な声かけができるようになる。

 現場経験のみならず、総務と同じバックオフィス部門の経験は総務で生きる。例えば、広報経験者であれば、総務の情報発信に新たな視点をもたらすことができる。SE経験者であれば、これまで慣習でなんとなく続いていた業務の要件を整理し、必要不必要を判断するきっかけになるかもしれない。

 総務の仕事を根底から見直すという刺激を与えられるのだ。多くの取材を通じて感じるのは、総務を変えるのは、外部出身者という事実である。少し悲しいが……。

異動経験がなくともキャリアアップは可能

 グローバルの総務(海外には日本のような総務は存在しないが)では、総務は専門職として扱われる。必然的にプロとして期待される。一方、日本では、本人の希望ではなくキャリアの途上で、総務に配属となるケースがほとんどかと思う。たまに、経営の意思として総務への配属という話も聞くが、ほとんどは総務にいて、またしばらくすると異動ということが多い。

 現場や他職種での経験は確かに有効だが、異動がなくても総務としてのキャリアアップは図れる。社内業務改善コンサルタントの役割を担うことだ。

 総務の仕事は改善がベースにある。その範囲を総務業務のみならず、全社のあらゆる業務まで拡大していくのだ。他の管理部門や現場の仕事にも、改善の観点で提案し、経験を積んでいく。それにより、先述したような応用力、汎用性を身に付ける。

 どんな分野の業務改善も処理できるような「ひっぱりだこ総務」を目指すのだ。そうすれば、社外でも通用する業務改善のプロになれるだろう。総務のキャリアアップはさまざまな方面から取り組むことができる。通常業務の外に目を向け、社外でも通用するプロを目指してはどうだろうか?

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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