倒産寸前なのに年収100万円アップ 売上38億円のV字回復を実現した、山梨のプリント企業の「決断と狙い」(1/5 ページ)

» 2025年12月16日 07時30分 公開
[大久保崇ITmedia]

 「今日注文で明日出荷」――ECサイト「CLAT-JAPAN(クラティージャパン)」にてTシャツなどのオリジナルプリントグッズの製作を展開するフォーカス(山梨県甲斐市)は、この短納期を武器に顧客のリピート率約75%を誇る。

代表取締役 常松憲太氏(画像:以下、フォーカス提供)

 同社はコロナ禍の2020年に売り上げが9割減となり、倒産寸前まで追い込まれた。しかしそこから5年で売り上げを約4倍となる約38億円へとV字回復。

 経営危機に陥る中、新卒初任給は42万円、社員の年収を100万円アップさせたことでも話題を集めた。2025年9月にはオーストラリア進出も果たしている。

 なぜ倒産寸前の会社が、これほどの成長と高待遇を両立できたのか。代表取締役の常松憲太氏に、その経営判断を聞いた。

「手書き」を3時間でデータ化 リピート率75%を支える仕組み

 クラティージャパンの顧客は企業、団体、学校、役所と幅広い。利用用途は自己利用が約50%、小規模アパレルやイベントでのグッズ販売など販売用が約30%、会社説明会や学校説明会での配布用が約15%を占める。注文の約70%はイラストレーターなどのデザインソフトを使わない顧客からだ。手書きのラフスケッチ1枚から注文が始まることも珍しくない。

 こうした多様な注文に短納期で対応できるのは、独自の生産体制があるからだ。まず、手書きデザインは中国・大連のチームがトレースし、約3時間でプリント用にデータ化する。1日500〜600件の処理が可能だ。

Tシャツにプリントするデザインを出力する

 生産現場では、1人の社員がデータ出力から加工、梱包、出荷まで全工程を担当する。「ライン生産だと必ず仕掛かり品ができ、各工程で滞留する時間が生まれる。それを0にするための選択です」と常松氏。1人で全工程を完結させることで、各社員の生産量が明確に数値化される。評価の透明性を高め、社員のモチベーション向上につながっているという。

 また、フォーカスは自社開発の管理システムを導入しており、注文が入った瞬間に各工場の稼働状況や生産キャパシティ、社員一人一人の業務スピードなどを考慮して、自動で業務を振り分ける仕組みを構築している。自動振り分けも同社の短納期を実現する一つの要因だ。

Tシャツにプリントするデザインを印刷する

 なぜ、ここまで納期短縮にこだわるのか。常松氏はかつてアスクルの代理店業務に携わる中で「注文したら明日届く」というサービスが急成長する姿を目の当たりにした。「価格は競合との比較で変動するが、届くまでの早さは誰にとっても同じ価値がある。だからこそ時間を縮める努力を創業当初から続けてきた」。この徹底ぶりが、リピート率約75%という実績につながっている。

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